inzm(吹雪アツヤ…海)




(うみなり:デフォルトは篠宮和巳)



 どうして、と問われればはっきりと答えられないくらいには、あやふやな感情……或いは感傷に基づいて和巳はボールを蹴った。和巳は、吹雪アツヤを知らない。彼の片割れが抱いていた残滓のみが、和巳とアツヤを結びつける全てであった。白銀の眸に炎を燃やし、見据えるはただゴールのみ。揺れる髪と灼眼の軌跡のみが今も記憶に焼き付いている……それも、いつかは消えてゆくのであろう。人の記憶というやつは曖昧に出来ていて、いつだって頼りないのだ、忘れられていくのみのあかい光。知っているか、あの星は疾うに死んでいたのだ!
 誰よりアツヤを知っていた吹雪士郎の中から、片割れの残滓が消え失せたのは唐突で……たとえ記憶に拠って作り上げられた人格だったとは言え、「佐用なら」を言うことも出来なかった。士郎の眸から赤く燃ゆる炎は消え、あの灼眼はもう、まなうらでしか見ることは出来ない。彼方、とおく……光の足音。わたしたちに降り注ぐ光はみな、かつての輝き、過去のひかり。ベテルギウスが今も燃えているだなんて、誰が決めた? 死した後、幾百の時を重ねてようやくわたしたちは最後の輝きに触れるというのに!

「……この技は、借りていくよ」

 誰もいないゴールのネットを揺らしたボールを見つめて、ひっそりと和巳は呟く。追悼の言葉はいらぬだろう? 君が彼岸に渡ったのは随分と前の話だ、手向けだなんて柄ではないが忘れぬためにひとつ形見を貰おうか。永久凍土の冷たさ、雪のきらめき、燃ゆる眼差しの欠片を抱いて……エターナルブリザード、あかい星の欠片を握りしめる。



灼眼の系譜





和巳がエターナルブリザードを覚えた切欠みたいな話。あってもなくてもどうでもいいね、アツヤくん大好きです。覚えても基本的に使わなかった設定、10年後にGOでお目見えとか考えてます。



2012/06/12 23:02






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