inzm(綱海…海)



(うみなり:デフォルトは篠宮和巳)


きみをかたちづくるもの


*髪

「………髪?」
「ああ」

 快活にわらう、目の前の男の髪はサハラ色。何をどうしたらそうなるのかわからない奔放さで立った髪にちょこんと乗ったゴーグルがトレード・マーク、今では大概サッカーボールも似合うと思うが、けれど、やはり彼には常夏の日差しとサーフボードが似合いだな。ぼんやりと考えて、和巳はまたたいた。

「海の色だろう」
「そうかな?」
「ああ」
「でも、綱海が知ってる海の色じゃあない」

 南の海は明るく透き通っている、明るいエメラルド・グリーン、ヘブンリ・ブルー。自身の髪の色とは程遠い筈だ、宵の空だとか、暗く沈む水底の……深海のいろ。大違いじゃないか! 苦く笑いながら零せば、同じ種類の笑みを浮かべて綱海は微かに首を横に振った、綱海には似つかわしくないその表情に、違和感が拭えない。

「冬の海の色だなぁ、浅海じゃなくて、遠海の、な」

 そうか、常夏の島にも凍える季節は訪れるの、か。目から鱗であった。それはきっと、自らの知る冬とは違うにきまっているけれど、あまりにも当たり前のことすら失念していた己を和巳は恥じる。彼に出会ったその時はまさに太陽の季節で、日がな波を追う姿ばかりが記憶に焼き付いていて、かの島はいつだって鮮やかな色に溢れているとばかり思っていたの、だけど…。
 少し、本当に少しだけ気になったから、いつかまた、あの常夏の島を訪ねてみようか。鈍色の雲がセルリアン・ブルーを遮り、強い東風が吹き荒ぶ季節に。和巳が思いつきに呟けば、日にやけた顔が俄かに輝きを取り戻した。寒さは嫌いだが、南の冬は随分あたたかいとも聞く。
 わたしのいろをした海を見に、いつか、きっとね。紺青を背景にわらうサハラ色を見たい。



2012/06/10 16:35


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