「はーやーくー!」

 少年が待ちきれないようにして川嶋を急かしている。川嶋もそれに引っ張られるようにして歩を進める。葵はその後ろを仕方なしについて行く。

「兄ちゃん、俺、ソフトクリームが食べたい!」
「んー、いいよー。今日は俺の奢りだよー」

 早速意気投合している二人。少年は期待で顔が輝き、川嶋はそれを見てにこやかに笑っている。まるで本当の兄弟のように見える。

 程なくして、フードコーナーの一角にある店舗に着いた。周囲には甘い香りや香ばしい香りが入り交ざり、客を誘っていた。
 自分は空いている席を見つけ、そこに座り込んだ。店の頭上にあるメニューには五種類ほどのソフトクリームがあったが、如何せん少年の背が足りず、メニューを見ることが出来ないようだった。

「兄ちゃん、メニュー見えないよう!」
「んじゃ、こうすれば見えるかー?」

 この世の終わりのような顔をしている少年を見て、川嶋は造作もなく少年を抱え上げて肩車をする。少年は、突然視線が高くなった事に大喜びしていた。

「じゃあ、チョコとバニラが混ざってるやつー!」
「ミックスね。ミックス一つお願いしまーす」

 ありがとうございましたー、という店員の声を背後に残して二人がこちらに戻ってくる。川嶋の手には、二つのソフトクリームがあった。

「はい。真田ちゃんの分」
「え…?」

 目の前に突然ソフトクリームが突き出され、目を白黒させる。ゆっくりと川嶋を見上げると、川嶋の手にも同じソフトクリームが握られており、少年の手にはミックスソフトクリームが握られていた。

「…私、頼んでませんけど」
「いーのいーの。今日は俺の奢りだって言ったでしょ?」

 そう言って、川嶋はからりと笑った。


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