(……不幸?)

 変態男の言った意味を掴みあぐねて、口を噤む。ゆっくりと走り出した自転車は、桜並木の坂道を下ってゆく。

「変態男、私を何処へ連れてゆくつもり」
「変態男じゃなくて、川嶋。俺の名前は川嶋廉次郎っていうんだ」
「そっ。それじゃ川嶋廉次郎、私を誘拐して何処へ連れてゆくつもりなの?」

 皮肉ってやると、変態男、もとい川嶋廉次郎は、からからと笑った。
 それはまるで、太陽みたいな笑い方で。

「ねえ、君の名前は?」
「知らなくても良いでしょう」
「ダメダメ、こっちが名乗ったんだから、君も名乗ってくれないと、礼儀に反するよー?」

 何故こいつに礼儀を説かれなければならないのだろう。ものすごく腹が立つ。

「……真田、葵」

 仕方なしに名乗ってやると、目の前の男はへえ、と楽しそうに相槌を打った。何がそんなに面白いのやら、へらへらと笑っているようだ。顔を見なくても、雰囲気で伝わってくる。本当にムカつく男だ。

 そうこうするうちに、私を乗せた自転車は大通りに出ていた。街中の賑やかな喧騒が耳をつく。土曜日だというせいもあってか、普段よりも交通量が多く、大勢の人間が道を行き交っていた。

「じゃ、とりあえずこらへんで降りようか」

 そう言って、川嶋は駅の近くのショッピングモールに自転車を停めた。

「買い物でもするつもりですか」
「あぁ、それも良いかもねー。君みたいな可愛い子とデートと洒落込むのもオツだなぁ」

 明らかにふざけている調子だったので、じろりと睨み付けてやる。それを笑いながら受け流されて、益々ふてくされる。

 そのまま川嶋について行こうとすると、前方に居る川嶋がいきなりくるりと振り返り、冗談としか思えないことを大真面目な顔で言った。

「手を繋ごう」
「嫌です」

 光の速さで返答してやると、川嶋はいたく残念そうな顔をした。

 「君が逃げてしまうかもしれないじゃないか。だから逃げられないように手を繋いでおこうと思って。その方が自然だろう?」

 ムカつく程爽やかな笑顔で手を差し伸べてくる。それを珍しいものでも見るかのようにじっと見つめる。そして、その手に自分のそれを重ねるように見せかけ、ぴしゃりと手をはたいてやった。途端、川嶋がきゃっ、と女子のような悲鳴を上げて手を引っ込めた。

「痛いじゃないか」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと行きましょうよ」

 恨めしげにこちらを見てごちる川嶋に、さらりと言ってのける。


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