期末試験も終わり、校内にはだらけた空気が流れていた。夏休み前最後の登校日である今日は、一限目に終業式を残すのみとなっている。終業式を終えると、ホームルームで夏季休業中の注意事項を滔々と聞かされ、そのまま夏休みとなる。
そんな暑気とだるさを含んだ雰囲気の中、幸福実現部の部室にも同じような空気が流れていた。
「てかさ、一限だけのために学校来る意味って。終業式とかどうでもいいー」
「いいじゃん!終業式さえ終われば夏休みだよ!パラダイスだよ!素晴らしい日常がそこにはあるんだよ!ドリームワールド!」
髪の毛を大胆にも金髪に染め上げた半田、こと半ちゃんが気だるげに声を上げる。その声に対し、部長である川嶋が元気に応答の声をあげた。このうだるような暑さの中でも、川嶋の無駄な気力は健在のようである。
「そこでだ、みんな!夏休み、幸福実現部で合宿をしようではないか!夏なんだから、海に行ってもいいな!あ、山でも僕は構わないけども!」
「おおー!賛成!俺は海行きてーなー!泳ぎてー!」
「いや、部長、受験生でしょ。勉強しないといけないんじゃないの。模試だってあるし、補講だの集中だの入ってるでしょ。遊んでる暇ないんでないの」
川嶋のはしゃぐ声に対し、美樹が冷静な声で現実を突き付ける。葵は、いつものように黙って窓から外を眺めている。
「いやいや?みっちゃん、俺には受験戦争なあんてものは関係ないのだよ。僕は、大学受験くらい楽にパス出来る優秀な頭脳を持っているからね!」
「まあ、ならいいんだけど。私には部長が大学に落ちたり落ちたり落ちたりしても、何も関係ないからね」
「いやいやいやいや、みっちゃん、俺が大学落ちるの前提で話すの止めてくれないかな!毎回地味に傷ついているのだよこれでも!」
二人がいつものようにぎゃあぎゃあと騒ぐ中、葵はやはり、それらには一切気を向けずに、外をぼんやりと眺めているのであった。
「葵ちゃんは?みんなで合宿、どう?」
半ちゃんが、先程からずっと黙っている葵に向かって投げかける。葵は、それに対してゆっくりと振り向いた。
「…え?何?」
「あー!真田ちゃん、俺の話聞いてなかっただろー!」
「いや、それいつものことだし
「ぐはあっ!みっちゃん酷いっ!真田ちゃんは、いつもは俺の話聞いてくれるもん!今日の真田ちゃん、ちょっとぼーっとしてるだけだもん!」
「話し方キモいんだよ変態部長」
「そうやってまたーっ!みっちゃん怖いよーっ!」
二人のやり取りをぼんやりと眺めながら、葵は、自分の頭の中のもやが徐々に晴れていくのを感じていた。
「…合宿?どこに行くんですか」
「お、葵ちゃんが目覚めたぞ。まだねー、どこ行くかは決まってないんだけどねー」
「いいんじゃないですか」
夏休みは、これといった用事も無い。いくらでも時間はあるのだ。
「おっしゃー!んじゃ、夏休み合宿行くよ!今からどこ行くか、何するか、ミーティングだ!」
「その前に、終業式、始まりますよ」
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