「あ、そういえば真田ちゃん、賭けるもの決めてなかったね。何がいい?」
 と言われても、葵には半田の持ち物で欲しいものが思いつかなかった。次の手を打ちながら、半田に賭けて欲しいものを考えた。

「…漫画、かな」
「漫画?何の?」
「何でもいいです。でも少女漫画は好まないかな」
「じゃあ少年漫画系だね。オッケー、負けたら明日あたりでも持ってくるわ。じゃあ俺は傘で。今日忘れちゃったんだよね」
「絶対負けられませんね」
 和気藹々とオセロを続ける二人だが、戦況は葵の方が有利なようだ。攻める手を休めず、葵が半田のテリトリーに鋭く切り込んでいく。

「…真田ちゃん、案外強いね?」
 笑顔で言う半田の声は、表情とは裏腹に強張っていた。余程濡れて帰るのが嫌らしい。それに反し、葵の表情は涼しげだった。

「チェック」
 最後の一手で、葵の勝利が確定した。半田は瞬間、ひどく落胆した顔になったが、思い出したかのように笑顔になって、悔しげな声を上げた。逆転顔のルールだ。

「半ちゃんが負け、と。じゃあ、次は俺と真田ちゃんかな」
 そう言って、戦況を静かに見ていた川嶋が、意味ありげな顔をして椅子から立ち上がった。瞬間、葵は言い知れぬ不安に駆られた。
 ――この人は、何を企んでいるのだろう?

 葵が席に着く前に、川嶋が賭けるものを伝える為に葵に近づいてきて、そっと耳打ちした。その内容に、葵は思わず顔を顰めた。

「何で、そんなものが欲しいんですか?」
「質問はなし。さ、葵ちゃんが俺に賭けて欲しいものは?」
 この質問に対し、葵は心底困ってしまった。川嶋から欲しいものなど、何一つ無いに等しいのだ。葵が黙っていると、川嶋は顔にいつもの緩んだ笑みを浮かべた。

「ま、思いつかないなら後で考えてもいいよ。負けないけどね」

 オセロを打ち始めた二人の力は互角だった。どちらも引かず、一手攻撃を加えては、またひっくり返される、ということを繰り返していた。
 葵は、先ほどの川嶋の要求が頭にチラつき、なかなか集中出来なかった。あの言葉の真意は何なのか。なぜ、あのようなものを要求してきたのか。
 徐々に戦況は川嶋に傾き始め、軍配は川嶋に上がった。勝利を掴んだ川嶋は、逆転顔ルールを忘れ、勝ち誇った顔で葵に目をやった。

「真田ちゃん、笑って」

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