一瞬、葵の顔が固まる。私と半田の距離が近いからと言って、何が不満なのだろう。
 そんな葵の表情を見て、半田が爆笑する。

「ぎゃっは!部長今ので葵ちゃんに完璧に嫌われた!みっちゃん聞いた今の?!超俺の所有物宣言じゃなかった?!」
 騒ぎ立てる半田の声に重ね、美樹が一言言い放つ。

「マジ部長キモい」
「ちょ…みっちゃんそれはないでしょ!この容姿端麗な俺に向かって『キモい』って!そういう言葉は真の醜男に向けて放つ言葉であってだな」
「だって言動とか行動がキモいんだし。ほんとキモいこの変態男」
「今『キモい』って二回言った!二回もその汚らわしい単語が俺の耳に入ってきたよ?!」
「うざい」
「一言で一蹴しないでー!」

 川嶋と美樹の怒涛の応酬を尻目に、半田と葵はオセロゲームを始めていた。川嶋に指摘された距離は直さずに。

「でもさあ、ほんとに部長って言動とか行動はキモいけど、別に容姿はキモくないよね。むしろ黙ってればカッコいい方なんじゃないの」
 半田がゆるりとした口調で葵に打たれた次の手を考えながら言う。横から川嶋がキモい言うな!と叫ぶ声が聞こえるが、それは敢えて無視する。

「…そうですか?」
「うん。あの変人さが浸透する前は、俺らの学年の女の子でも部長のことカッコいいって言ってる子居たよ」
「……そうですか」
 確かに、川嶋は容姿は悪くないと思う。容姿は。
 でも、やはりあの変人ぶりを全面に押し出した性格は好まないな、と思う。

「もう少しまともだったら良いんと思うんですけど」
「あ、それ俺も賛成」
 二人がのんびりとオセロを打っている横で、川嶋と美樹は未だに馬鹿馬鹿しい戦いを繰り広げていた。

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