「じゃあ、まずトーナメント表作ろうか」
 そう言って、川嶋がホワイトボードにトーナメント表を書き始めた。それによると、葵の初めの相手は半田のようだった。

「葵ちゃん俺と初めに当たるじゃん!よろしくー負けないよー」
 そう言って葵に笑顔を向ける半田は、無邪気な子どものようだった。それに対し、葵がこっくりと頷くと、半田は嬉しそうに笑みを深くした。

「私は部長とかー。絶対負けらんねーしあんなバカに」
「えっ、みっちゃん何か最後に余計なこと言ったよね?バ何とかって聞こえたけど?」
「幻聴です気のせいですさあ始めましょう」
「何それ超棒読みじゃん!」
 後ろでぎゃあぎゃあと騒ぐ部長を一切無視して、美樹がオセロの準備を始める。半田もそれに加わり、葵はその様子を眺めてから川嶋をちらりと見やり、密かにため息を吐いた。
 オセロ・ゲームの始まりだ。


******

 部室は外から微かに聞こえてくる雨音の他には何も聞こえない。初戦は川嶋と美樹の試合だった。二人とも真剣にオセロ盤を見つめ、その空気はぴんと張りつめていた。
 美樹が白で、部長が黒のようだ。ぱっと見ではどちらも同じぐらいに見える。部長が盤の一角に手を伸ばすと、美樹が呻いた。どうやら、僅差で部長が勝ったようだ。

「はー!あり得ない!部長に負けるとか!あり得ない!」
「まあこれが実力ってやつだよね。さーさー、賭けたものを頂こうかな」
 美樹が悔しがる横で、部長がどうだと言いたげにふんぞり返る。それを横目でじろりと見る美樹。そして、渋々とお菓子がたくさん入ったスーパー袋の中から、ひとつのお菓子を部長に手渡した。

「おー、みっちゃんはお菓子を賭けてたのか」
 そう言って目を丸くしたのは半田。実は、賭けるものについては対戦する二人だけで決めようと後から部長が言い出したので、決着がつくまで観戦者の二人は賭けたものが何か知らないのだ。

「あのみっちゃんが自分のお菓子をねえ…何をそんなに追い詰められたのか、よほど勝てると高をくくっていたのか…」
「ちょっと黙れお子様半田」
「ほっほー、それは俺がチビだと言いたいのか毒舌糖尿病」
「誰が糖尿病だドチビの脳タリン」
「そんなに毎日お菓子ばっか食ってたら糖尿病にもなるだろって誰が脳タリンだ!」
「あーうるさいうるさい。分かったから次の試合やるよ。ほら半ちゃんと真田ちゃんだよ」
 珍しく部長が二人をいなすように落ち着いて次の指示を送っていた。それにおとなしく従う半田とその後に続く葵が生徒用の机を挟んで座る。

「よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げる半田の頭を見た葵は、指通りの悪そうな髪だなと思った。川嶋のさらさらな髪とは大違いだ。

「よろしくお願いし」
「何か近くない?」
「…は?何が?」
 葵の挨拶を遮って川嶋が切り出す。半田の疑問を受けた川嶋は、不満げに言葉を漏らす。

「……二人の距離が」

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