テストの終了を告げるチャイムが鳴り渡ると、テスト監督の教師が解答用紙を回収し始め、生徒が皆それぞれ背伸びをしたり、机につっぷしたり、解答を友達同士で確認し合ったりで教室は喧騒に包まれた。
 葵は席を立つと、ロッカーから自分の荷物を取り出して帰ろうとしたのだが。そのロッカーの前に美樹が立ちはだかっているので、荷物を取ろうにも取れなかった。

「…何ですか?」
「あの馬鹿部長が『葵ちゃんは涼しい顔して部活サボりそうだから』迎えに行けって」
「そ、そうですか…あの、そこまで来るなら部長が迎えに来ればいい話じゃないですか?」
 何もそこまで疑わなくても良いではないか。葵は少しがっかりしたのと同時に、ふと抱いた疑問を口にした。それを聞いた美樹は、ああ、と馬鹿にしたような顔で相槌を打った。

「部長今ちょっとおかしいからしょーがない」
 ほんっとアホみたい、と首を振り振り溜息をつく美樹を見て、あの人は初めからおかしかったではないのだろうかと確信に近い疑問を抱いた葵であった。

******

 部室に入ると、既に川嶋と半田がソファに陣取ってオセロをしていた。丁度勝敗が決まったらしく、頭を抱えて唸る川嶋とガッツポーズをしている半田を見たところ、半田がこのゲームの勝者らしい。

「へー、半ちゃん勝ったの。珍しいじゃん」
「いや、負けた」
「「は?」」
 美樹と葵が同時に訝しげな声を上げると、川嶋が俯けていた顔を上げて笑顔でその疑問を晴らした。

「つまりね、勝った人が負けた風に、負けた人が勝った風に演技するってルールなの」
「馬鹿ですね」
 葵が間髪いれずに切り返すと、川嶋ががくりと項垂れた。

「何その冷たい感じの突っ込みー。もっとこう、言うことあるんじゃない?『そんなこと思いつくなんてすごーい』とか『斬新な発想力ですねー』とか」
「あ、すいません。私そんな斬新な発想力持ってないので思いつきませんでした」
「ぐはっ」
 葵の返事を聞くと胸を押さえてソファに倒れこんだ川嶋と、それを呆れたように見つめる葵。美樹と半田は、二人は密かにお似合いではないかと心の内で思っていた。思うだけで言わなかったが。
 それを言えば川嶋は喜ぶだろうが、葵からは氷のような視線が送られるだろうことは、二人共容易く想像出来たので。

(そんな怖い葵ちゃんやだから言わない)というのが半田の心の内。
(まあ、そこは馬鹿部長とあの子の問題でしょう)というのが美樹の心の内だった。

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