初夏のうららかな陽射しの中、心地よい風が頬をなでるのを感じながら、学校へと続く坂道を登る。
周囲では爽やかな挨拶が飛び交い、皆が白いワイシャツをはためかせながら、校舎へ向かって走ってゆく。
そして、これまた爽やかな声が私の耳を刺激するのだが、これだけはどうしようもなく不愉快な雑音として私に認識される。
「真田ちゃーん」
校舎の窓から大声で呼ばれたので、仕方なしにそちらへ目をやると、案の定。初夏のうららかな陽差しの中、こちらに向かって爽やかに笑いかける少年が一人。
「放課後付き合ってよ!」
お陰で周囲の視線が痛い。
それら一切を華麗に受け流し、あくまで颯爽と校舎へと向かう。下駄箱まで辿り着き、盛大に溜め息をつく。
「そんなおっきい溜め息なんかついたら、幸せ逃げちゃうよ?」
「……先輩」
「真田ちゃん、今日こそは部活に参加してくれるよね?」
「…部活に加入した覚えはありませんが」
「放課後に活動するから顔ぐらいは出してってね!」
こいつは爽やかな顔をして、全く人の話を聞いていない。なんといけ好かない野郎だろう。
「先輩、私にあまりしつこく付きまとうようなら、然るべき所にて裁いてもらいますけど」
「失礼な。僕はストーカーなんかじゃないよ。ただ真田ちゃんに部活に参加して欲しくて」
「余計なお世話です」
こんな奴にいちいち付き合っていたら遅刻してしまう。その場に川嶋を残して教室へと向かう。
…が。
「何で先輩までついて来るんですか?」
後ろを振り向きざまに胡乱げに呼びかける。
「真田ちゃんが部活に来るって言ったら帰る」
「……はあ?」
この男は何を言っているのだ。
川嶋と言い合いをしているうちに教室に着いてしまった。クラスメイトにこんな奴と一緒に居るところを見られては敵わない。教室の前で立ち尽くし、暫し考え込み、諦めたようにして息を吐いた。
「…行けば、いいんですよね」
「おー!最初からそう言ってくれればいいのに!」
こちらの気も知らずにほけほけと笑う男を睨み付ける。
「んな怖い顔しないでよ!じゃっ、また放課後ねー!」
返事を返すことも厭わしく、そのまま教室へと入り自分の席につく。
教室内は、あの無駄に爽やかな男のように騒々しく、笑いに満ち溢れていた。
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