灰色に垂れ込める雲が涙を落とす。あれはまるで私の涙のようだ。泣けない私の代わりのように、あの雲は。


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 じんわりとした蒸し暑さがそこらを覆い尽くしている。この中途半端な季節が一番嫌いだ。春のように爽やかな空気を持つわけでもない、夏のように灼熱の太陽を持つわけでもない。雨雲が空を覆い、空気はどんよりと澱み、街行く人々は皆憂鬱な顔をしている。

 そんな陰鬱な空気の中、なぜか私は降りしきる雨の中を小さめのビニール傘を片手に突っ立っている。
 隣には、『雨でも青空が楽しめる』などと言って、中に青空がプリントされた傘を手にして柄をくるくると回す、『幸福実現部』という訳のわからない部活の部長である川嶋廉次郎が地べたにしゃがみこんでいる。その隣は、いささか抜けすぎた感のある金髪をワックスで遊ばせた半田龍二が大量の傘を持って立っている。他にももう一人、可愛らしい外見とは裏腹に口を開けば毒ばかり吐く木下美樹は、最近話題のスイーツ店を見つけると目の色を変えて飛んでいってしまったので、この場には居ない。 自分がここに立っているそもそもの理由は、部長である川嶋が突然「街の方々に傘を配りに行こう」などと言い出したのがきっかけだった。
 窓の外はどう見ても雨、生憎と外でお散歩というような雰囲気ではない。こいつは冗談を言っているのだろうか。存在自体が冗談のような奴だと思うのだが。

「何でこんな雨の中外に出なきゃいけないんですか。大体、今は中間テスト一週間前だって気付いてますか、変態部長」
「変人は許すけど変態ってのは頂けないねー美樹ちゃん。突然の雨に傘が無くて困っている方々が居るかもしれないだろう。で、この学校に大量に忘れられている傘を回収して、それを配ろうっていう活動を今思いついたの」
 テストの部分は見事にスルーした川嶋である。そんなわけで、中間テスト一週間前であるにも関わらず、川嶋に無理やり外に連れ出されたというわけなのだった。

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「ねえ、傘売れた?」
 どうやら先ほどの店でケーキを買ってきた風の美樹が戻ってきて、怠そうに川嶋に問いかけた。その質問に対し、川嶋はうっと息が詰まったような声を出した。
 先ほどから30分ほどこの場に立ち尽くしているが、傘が無くて困っているような人は見当たらない。皆、大量に傘を持っている自分たちを不審げな目で見て目の前を通り過ぎて行く。

「売れないんなら帰りますよ」
「いっ、嫌だ!」
「我侭言ってんじゃねえぞクソが」
「やだ〜みっちゃん怖い〜」
 うっぜえ!と言って底が雨で濡れたローファーで川嶋の足を蹴り飛ばす美樹。それを見た半田がおお、と感嘆の声を上げ、川嶋はひどく痛がっていた。(そりゃあんなに強く蹴られたら痛いだろう)

 一行は学校へと向かう。無駄な時間を過ごした上に人々からの視線を背中に受けて。

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