葵が流されるままに入部届にサインすると、半田が嬉しそうに笑った。美樹は相変わらず無表情のまま。川嶋は葵が突き出した入部届を見て高らかに宣言した。

「……っしゃー!明日から新メンバーで気張っていきましょー!」
 うぇーい!とノリノリで拳を突き上げるのが半田。気張るのは部長だけでいいなどと言って菓子を頬張るのは美樹。葵は未だにテンションについていけず、何も言えなかった。

「ちょ、半ちゃんだけだよノってくれんの」
「俺、自称お祭り男ですから」
「あっ、鉢巻とか半纏とか似合いそうだもんね!」
 男二人で盛り上がる光景と我関せずといった体の美樹を見て、葵は早々に部活に加入したことを後悔し始めていた。

******

 今日は散々な一日だった。
 葵は昇降口で上履きから外履きに履き替えながら、思わず溜息をついた。高校に入学してからというもの、ろくな思いをしていない気がする。その原因の8割は変人部長の川嶋にあると思うのだが。

「っさーなーだちゃんっ!」
 葵が考えに耽っていると、背後から今日一日で何度も聞いた声が聞こえてきた。葵が振り向くと、その人物はうわ、と驚いたように後ずさる。

「何、その死んだような顔は」
「どこかの誰かさんのせいで精根尽き果てました」
「酷い奴だね、そいつ!」
「ええ、そうですねーどこかの誰かさん」
「…え、俺?」
 きょとんとする川嶋を黙殺して葵が帰ろうとすると、川嶋が慌てたようにその背を呼び止めた。
 葵がめんどくさそうな顔で振り向くと、川嶋は少し傷ついたような顔をしてその場に立っていた。

「俺のせいで精根尽き果てた真田ちゃんの為に、家まで送らせていただきます」

******

 入学式の時のように、川嶋が運転する自転車の後ろに乗る。夕方の温い風が葵の頬を撫でていき、葵は目を細めた。
 初めに川嶋と出会った時と寸分変わらない背中を眺めていると、柔らかそうな猫っ毛が風に揺れた。葵がそれに手を伸ばし、そっと手で梳くと、川嶋が驚いたように自転車のブレーキをかけた。

「な、なに?」
 こちらに振り向いた彼の顔は困惑顔だ。手で梳いた髪の感覚が未だ手に残っている。思った通りそれは柔らかくて、まるで女の子の髪の毛みたいだった。
 葵が川嶋の質問に答えずにいると、彼は諦めたように前を向いて自転車をこぎだした。背中に頭を乗せてみれば、ひと際大きく跳ね上がった心音が聞こえてきた。



「ここまででいいです」
 自宅近くのコンビニの前まで来て、葵が川嶋にそう告げると、彼は自転車をこぐ速度を落として緩やかに停止する。葵がまたがっていた荷台から降りると、その光景を見ていた川嶋がぽろりと本音を零した。

「……パンツ見えるよ」
「ああ…そうですか」
「てかね、真田ちゃん、そのスカート丈は流石に短すぎるよ。誘ってんの?」
「ちゃっかりおかしな事言わないで下さい。通報しますよ」
 へいへい、と川嶋が自転車の向きを変えて帰ろうとし、はたと動きを止めて葵の方に振り返る。

「明日も部活、ちゃんと来てね」
 何の作意も無い笑顔だった。葵は、何だか毒気が抜かれたような気分でそれに片手を挙げて答え、くるりと背を向けて絶対だよー、と人目も憚らずに叫ぶ川嶋を、今度は無視して家に向かって歩き出した。

(『』across xx end)

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