その時、頃合を見計らったかのように扉が開けられた。その音にその場に居た皆がそちらの方に振り返ると、小柄な少女が腕にパンやらお菓子などを詰めた紙袋を抱えて戸口に立っていた。
「あ、みっちゃん」
どうやらこの少女がみっちゃんと呼ばれる人物のようだ。前髪を目の上で切り揃え、癖のない髪を胸下あたりまで伸ばしている。何よりもその大きな瞳が印象的だった。小柄な体躯とあいまって、年齢よりも若干幼く見える。
少女はその大きな瞳で葵をじっと見つめた。無言であまりにも見つめられたものだから、葵は段々と居心地が悪くなってきた。
「みっちゃん、この子は真田ちゃん。新入部員だよ。真田ちゃん、この子はみっちゃん。美樹だからみっちゃんね」
「すみません入部した覚えはありませんが」
川嶋が少女に説明してやると、少女は口にくわえていたあんパンを外して言い放つ。
「変人部長もよくこんな美人さん引っ掛けたもんだねー」
葵が呆気に取られて少女、美樹を見つめ、その隣りでは半田が爆笑している。川嶋は焦ったように美樹と葵の二人を見ていた。
「ちょ、みっちゃん、初対面でそれは酷いでしょ!失礼すぎる!」
「だって半ちゃんビビらなかった?この変人部長がこんな可愛い女の子連れて来てさぁ」
「ひっ、ひっ、」
「引き笑いキモいよ半ちゃん」
どうもこの空気は自分には合わないと思う。やかましすぎるのだ。
自分が居心地悪そうなことに気付いたのか、美樹さんがまあ座れば、と声を掛けてくる。
狭い部室の中に一つしかないソファに腰かけると埃が舞った。
「で、そこの美人さんは何の役職にする?」
「…えっ」
「そこの変人は部長、半田はゲーム係、あたしはおやつ調達係。あ、あたしが調達したお菓子の8割はあたしのもんだから手出さないでね。手出したら原価の10倍の金額支払ってもらうから」
「…いやあの、私先輩に無理やり連れてこられただけなので、別に入部とかは考えてないです」
美樹が川嶋と半田を順々に指さしながら葵に説明する。葵はとりあえずその係名のおかしさは無視して自分の意見を恐る恐る主張してみることにした。
「ああ、うん。何となくそうだとは思ってた。けど、美人さんの入部は決定事項だから」
「え……は?!」
どうしてそういうことになるのですか、という言葉は喉に詰まって出てこなかった。ただ口を開閉して美樹を凝視することしか出来なかった。
「部長が連れて来た時点で入部してることになるの。これ入部届ね」
「じ、人権侵害ですよこんなの…」
「そういうルールなの。はい、さっさと書いた書いた」
不可抗力だ。部長には脅迫紛いの事をされて部室に連れてこられ、目の前の少女にも有無を言わさぬ態度で入部届を突き出され。
何て酷い高校生活の幕開けだ。
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