「あのさ、お取り込み中悪いんだけどさ。今授業中なんだけど」

 突然二人に声が掛けられる。驚いてそちらを見やると、葵の担任が呆れたようにして扉から二人を見ていた。教室内からは好奇の目線もちらほらと見える。途端に、葵は顔が上気するのを感じた。

「……すみません」
「はい、分かったから教室入れ。川嶋はさっさと三年棟に戻れ」
「ええ、嫌ですよ。俺も真田ちゃんと一緒に授業受けます」
「お前の日本史1にしてもいいか?」
「はいわかりました帰ります」

 川嶋が葵の方に向き直って、きゅっと口角を吊り上げて見せる。

「じゃ、放課後になったら迎えに来るからね」

 そう言い残し、川嶋は颯爽と廊下を戻って行った。その姿を見送っていた葵に向かって、担任がもっともな質問を投げかける。

「お前らって付き合ってんの?」
「は?」

 葵が胡乱げに返事をすると、若き日本史担当の教師はにっと笑いかけた。

「だってお前らどう見たって付き合ってるようにしか見えないよ?」
「ええっ…!」

 担任の言葉に川嶋とは反対に顔を青くする葵。そんな葵の様子を見て、葵の担任である彼は内心で川嶋を励ました。
 こいつは厄介だぞ――

******

 ホームルームが終わり、葵が荷物を鞄に詰めていると、教室の扉から自分を呼ぶ声が聞こえてそちらを振り向く。すると、川嶋が満面の笑みでこちらに手を振っているのが見えた。思わず溜息をつきそうになるのを堪え、黙って川嶋に近付く。周囲から痛い程に視線を感じる。
 葵は、その雰囲気に耐えられなかった。川嶋がまだ何も言わないうちに、彼を急かして教室から追い出す。

「部室はどこですか」
「ん?部室はねー、図書室の隣にある資料室を借りてんだ。や、嬉しいね。やっと真田ちゃんが部活に顔出してくれる気になってくれて」

 よほど嬉しいのか、川嶋は楽しげに鼻唄まで歌っている。葵はそんな川嶋の背中をじっと見つめた。

 暫くして、二人は資料室に辿り着いた。葵は、そのいかにも怪しげな張り紙を見てげんなりとする。それが思い切り顔に出ていたのか、川嶋が気楽に葵に声を掛ける。

「大丈夫だよー、別に何も変なことしてないし。きっと真田ちゃんだって楽しいって思うよ?」

 葵はそれは本当なのかと問い掛けたくなったが、問うだけ無駄だと思って開きかけた口を閉じた。
 それをどう勘違いしたのか知らないが、川嶋がにっこりと笑って資料室の扉の取っ手に手をかけた。

「ようこそ。幸福実現部へ」


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