「ん?あ、これね。俺が作ったの。食べる?」
葵は、屈託のない笑顔で差し出されたそれをじっと見つめ、川嶋に視線を戻す。
「いらないで「分かったあげるよ」
にこにこしながら川嶋は葵のパンの上にタコ型ウインナーを落とす。言葉を遮られた上に勝手にウインナーを追加された葵は思わず無言になる。
「だってもっと栄養摂らないと。だから真田ちゃん白くて細っこいんだよー。それにタコさんウインナー可愛いじゃん」
「川嶋先輩だって十分細いじゃないですか」
「え、そう?まぁいいじゃないの、成長期なんだよ」
「そんなものとっくに終わったでしょうに」
「まぁまぁそう言わずに」
葵が痛烈に皮肉ってやると、川嶋はからりと笑ってそれを受け流す。葵は既にこの川嶋との似たようなやり取りに慣れてしまっていた。自分がどれだけ冷たく突き放しても、彼はのらりくらりと自分に近付いてきて、簡単に自分との距離を詰めてしまうのだ。
「ほらほら」
川嶋が笑顔でバターロールの上に載っかっているタコ型のウインナーを指差す。葵は、促されるままにウインナーを口に運んだ。
「美味しい?いや美味しいでしょ。何しろ俺が作ったんだからね!」
確かにウインナーは美味しかったが、葵は絶対に川嶋に美味しいとは言わないと決意した。 そうこうしているうちに昼休みの終わりを告げるチャイムが辺りに鳴り響いた。
「お、5限目始まるね。真田ちゃん、教室まで一緒に「嫌です」
葵にすっぱりと断られ、途端に悲しそうに顔を歪める川嶋。それを無視して葵は一人校舎に向かった。
「待ってよー、真田ちゃーん」
「待ちません」
普段よりも多く昼ご飯を食べたせいなのか、川嶋と馬鹿話をしたせいか、葵は普段よりもずっと暖かい心持ちで教室に向かった。
(暖かい、な)
それを自覚した瞬間、自然と葵の顔から笑みが零れた。
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