無事中庭に降り立つと、裏庭に向かって歩き始める。
 裏庭に近付くにつれて、校舎内のざわめきは徐々に薄れていき、やがて聞こえなくなった。

 葵は、騒々しい音が苦手だった。だから、昼休みになると教室を抜け出して、人目につかない裏庭で一人昼食を摂るのが常だった。
 そう、いつもは。

「真田ちゃーん、一緒に弁当食べよー」

 以前も似たような事があったので、この状況には驚かないが、それにしてもあの男の行動には恐るべきものがあると思う。

「いいですよ、別に」
「やったあー」

 すると、葵が座っている近くの木の上から川嶋が飛び降りてきた。手にしっかりと弁当らしき包みを抱えて。

「うわっ、真田ちゃん、飯そんなんで足りんの?」
「放っといて下さい」
「いやでもさ、そんなちっさいパンだけって…」

 女の子は食べないと!と息巻いている川嶋を黙殺して、小さなバターロールを口に入れる。
 その様子を顔をしかめて見ていた川嶋は、何か閃いたように突如顔を輝かせた。

「そうだ、俺の弁当ちょっとあげればいいんだ!」
「要りません」
「いいから食べなって!」
「だから要りませんって」

 葵がうろんげに川嶋を見やると、川嶋の手には似つかわしくない可愛らしい弁当が握られていた。

「………え」

 それを見て絶句している葵に気付いた川嶋は、不思議そうに頭を傾げた。

「…あの、それ、何ですか」
「弁当だけど?」
「いえ、そうではなくて……何で、ご飯がピンクのウサギさんだったり、タコさんウインナーが入っていたりするんですか…」



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