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入学してしばらく経つが、葵には友達が居なかった。
彼女自身が、友達というものに必要性を感じていなかったこともある。それ故に、既に仲の良いグループが形成されつつあるクラス内で、彼女は孤立しつつあった。
教室に入っても誰にも挨拶せずに、静かに席に着く。窓側の最前列にあるその席は、葵にとっては考え事をする絶好のポイントだった。
春の爽やかな風が葵の頬を撫で、柔らかに教室を通り過ぎていく。
そんな中で、依然教室内は騒がしく活気に満ち溢れ、葵の鼓膜を震わせた。
それに耐えるかのように葵はそっと目を閉じて、春の穏やかな空気を深く吸い込んだ。
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昼休みになると、今まで教師と授業という雰囲気に押さえ付けられていた生徒達が一気に解放された。
校舎の其処此所で笑い声が飛び交い、学校が一つになったかのような一体感に包まれる。
葵はそんな雰囲気から逃げ出すようにして教室から廊下へ出た。
しかし、そこでもやかましい事には変わりがなく、葵は益々足を早めた。
そして、中庭に出ようと窓に足をかけ、ひらりと窓の桟を飛び越えた。
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