都内でも、この季節になると雪は降る。ホワイトクリスマスなどと騒ぐ輩も居るが、自分は寒いだけで何も面白くないと思う。雪国出身だからそう思うのだろうか。
 つらつらと考え事をしていると、隣で彼女が寒いね、と呟いた。それに相槌を打ちながら、自分の故郷はここよりも多く雪が積もっているのだろうと思った。
 そういえば彼女は首都の出身だったか。彼女にとってはこのちらつく雪も珍しいのだろうか。

「ねえ、ほら、雪だよ」
「うん、知ってる」
「え、何その冷たい反応」
「雪なんか腐るほど見てきた」
「へえ、××君の地元ってたくさん雪降るの?」
 彼女の表情はくるくると変わる。自分の反応を見て怪訝そうにしていたかと思えば、途端に笑顔になったりという具合にだ。
 彼女はいつも楽しそうに生きている。そんな彼女の視点でこの世界を見たら、世界はどのように見えるのだろうか。

「年明けたら、実家来る?」
「行きたい!雪見たい!」
 ほら、まただ。顔を輝かせて自分の提案に飛びつく。見ていて飽きない人だと思った。
 次は、自分にどんな表情を見せてくれるのか。

 瞬間、ポケットに潜めていた手を出し、手のひらに乗せたそれを彼女に手渡す。それを見た彼女は、子どものようにはしゃぐ。クリスマスプレゼント?と言いながら小さな箱を開けると、彼女は大きく目を見開いた。ひどく驚いたように見える。

「××のこと親にも紹介したいと思ってさ。婚約者として」
 彼女は黙っている。自分は彼女の表情の変化を密かに楽しんでいる。次の瞬間の彼女は、どのような表情をしているのか?と。
 彼女が上げた顔を見て、今度は自分がひどく驚かされた。彼女は泣いていた。大粒の涙を目から零し、頬から顎にまで伝っている。自分が想像していたのは、彼女が笑う顔か、喜ぶ顔だったからだ。

「何でこんな…何でもないような顔して…」
 しかもなぜだか怒っているようでもある。怒られるような事はしていないと思うのだが。
 自分が答えないでいると、彼女は泣き顔から華やかに笑った。その笑顔が、ひどく輝いて見えた。

「最高のクリスマスプレゼントだ」
 そう言って、彼女は突然抱きついてきた。予想外の行動に驚いたが、自分も彼女を力いっぱいに抱きしめる。周囲からの好奇の視線なんて気にも留めない。自分は今、彼女だけを見ている。

「来年、きっと連れて行ってね」
 約束するよ。来年になったら自分の故郷に彼女を連れて行ってたくさんの雪を見せてやろう。そして、彼女を生涯幸せにすると誓おう。

2010.12 沢村 詠




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