ぼんやりと目を開くと、二日酔いの頭が鈍く痛んだ。時計に目をやると、既に正午をとっくに過ぎていた。痛みに顔を顰めて横を向くと、いつもは隣で寝ている彼女の姿が見えなかった。
 携帯に手を伸ばし、彼女の携帯にダイアルする。短い発信音の後、彼女の声が聞こえてきた。

「今どこ?」
「三丁目のスーパーに居るけど」
「セックスしたい」
「自分で抜けば?」
「やだ。オナッた後虚しすぎるし、突っ込みたい」
 笑いを含んだ声が返ってきて、変態と軽く罵られた後、すぐに帰るというような旨の言葉が返ってきた。
 電話を切り、立ち上がって洗面所に向かう。歯を磨きながら、思いに耽る。
 なぜか無性に性欲を掻き立てられる時があるのだ。こんな時に彼女が居て良かったと心底思う。
 世の中のチェリーども、羨ましいだろう。


 顔を洗い終えると、玄関を開ける音と、ただいまーという彼女の声が聞こえてきた。
玄関まで出て行くと、彼女は両手に大荷物を抱えて立っていた。
 その姿を目に入れると、そのまま彼女を抱きしめた。彼女が自分に荷物が重いと文句を言っているのが聞こえるが、構わずに強く抱きしめると、彼女は諦めたように肩の力を抜いた。
 彼女の顔を上向けて唇ごと食べてしまうようなキスをする。彼女の舌が自分の口腔内に侵入してきて、くるくると動き回った。唇を離すと、彼女はにやりと笑う。

「隣に私が寝ていないと駄目なのかな?電話まで掛けてきちゃって、珍しい」
「そんなこと言ってると犯しますよ」
「はいはい、どうぞお好きなように。どうせ何も食べてないんでしょ、ケーキでも食べる?」
 そう言って、彼女は今まで手にしていた荷物をどっこいしょなどと言いながら床に下ろし(言っておくがその時の彼女は全くもって可愛げが無かった)、その中から小さな箱を取り出してキッチンへと向かう。中身に興味をそそられた自分も後について行くと、彼女は小さな箱の中からこれまた小さなケーキを取り出して綺麗に四等分にした。

「この二つは今食べて、残りは夜に食べよう」
 ケーキは程よく甘く、自分たちの性欲を掻き立てるスイッチになった。
 彼女と二人でケーキを食べていると、彼女がケーキの上に乗っかっている生クリームを指で掬って自分の口の中に突っ込んできた。自分がそれを舐めとると、彼女がするりと自分の腕の中に入ってきて、先ほど自分がしたようなキスをした。

「メリークリスマス」
 そう呟いた彼女を見て、何かがすとんと居所に収まったような気がした。
 そうか、今日はクリスマスだったのか。では、クリスマスのせいで、自分の性欲が刺激されたのだろうか。それを口にすれば、彼女はからりと笑った。


 彼女は良い匂いがする。香水ではない、彼女自身の匂いが自分の鼻孔をくすぐると、何ともいえない優しい気持ちになる。彼女を抱きながら、いつも思うのだ。彼女は自分にとって精神安定剤のようなものなのだと。

「……ねえ」
 行為が終わった後にベッドに二人で寝そべっていると、彼女が声を掛けてきた。少し汗ばんだ彼女は遠くを見るような目で自分に問いかけた。

「ねえ、こうやって今日セックスしてる恋人って全国にどのくらい居るんだろうね」
「……萎えること言うなよ」
「もう萎えてるでしょ。問題無いよ」
 この野郎、と思う。こんな可愛い彼女に一回だけで満足すると思っているのか。残念ながらそれだけじゃあとても済まない。

「ラウンド2、行きますよ」
「おや、お盛んですこと」


2010.12 沢村 詠




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