「…は?」
「お兄さんの部屋に居候させてよ。あたし、家に居たくないんだ」
 にこにことしながら彼女がこちらに体を向ける。俺は逆に彼女から後ずさりした。

「…冗談だろ?行きずりの見ず知らずの男の部屋に居候って、そんな話ありかよ」
「そんな話だってあるでしょ。あたし家事ぐらい出来るし、お兄さんの性欲が復活したら抱けばいいじゃない。悪くないと思うけど?」
 あ、あたし性病は持ってないから大丈夫、なんて事をけらけらと笑いながら言ってのける彼女を見て、俺はとんでもない奴に引っかかってしまったと後悔し始めていた。

「お兄さん、見た目はチャラチャラしてて遊んでそうなのに、ちょっといい人っぽいじゃん?だからお兄さんだったら無料でいいやー」
「や…駄目でしょ、帰ろうよ」
「やだよ。そしたらお兄さんから10万円ふんだくって警察に泣きついてやるから」
 これには参ってしまった。しがないフリーターの自分にとって10万の出費は痛いし、警察に駆け込まれたらこちらの不利は目に見えている。俺は、彼女をこの部屋から追い出す事を諦めた。

「あー…いいよもう、どうでもいいー…」
「ありがとー。それでこそ男だよお兄さん」
 コンドームくらいなら買ってくるよ等と女子高生とは思えない発言をしながらも、彼女が再び見せた微笑みに、俺は一瞬見とれていた。


「ねえ、お兄さん、酒盛りしない?」
 少女が冷蔵庫から買い置きしていた発泡酒を持ってきて俺にそのうちの一本を渡した。それを受け取ると、彼女がテーブルを回り込んで俺の隣に座りこんだ。発泡酒を喉を鳴らして飲む彼女を見て、自分も発泡酒のプルタブを引いた。
 少女に促されるままに酒を煽っているうちに、自分でも驚くほど酔いが回ってきたのがわかった。気付いた時には既に遅くて、少女に今までの経緯を事細かにぶちまけていた。

「…で、ついさっき、電話掛かってきてさ、いきなり『別れよう』って言うんだよ。やってらんねーよ」
「ふーん、それはひどい話だね。元カノさんは良い彼女さんだった?」
「あー…料理出来るし、優しいし、胸でけーし、良い女だったなー。あーちくしょ、俺何かしたか?」
「知らないよ。女だって色々あるんだよ。そーゆー家庭的で母性的ーみたいな女ほど影で何か抱えてたりするんだよ。お兄さん二股でもされてたんじゃないの」
「ひっでーなそれ」
 俺が乾いたような笑い声を上げると、少女もからからと笑い、一気に酎ハイを喉に流し入れた。

「いー飲みっぷりだね」
「あー、いつもこんな感じだよ。この勢いで7本ぐらいだったらいける」
「ちょっと飲みすぎじゃね?」
 そんな事ないよー、と膨れる彼女を見て、へえ、と相槌を打つと、彼女がぴったりと身体を俺に押し付けてきた。ワイシャツ越しに伝わるその体温が温かくて、彼女の髪からは良い匂いがするなぁなんて考えていた。
 ふわりと彼女の香りが一層強くなり、そして唐突に、彼女の唇で自分の唇が塞がれた。
 まず初めに、リップクリームか何かがが唇にまとわりついて不快だと思った。その次に、すごく柔らかい唇だと思った。唇が触れていたのは僅か数秒のことで、次の瞬間には少女の唇は俺の唇から離れていた。

「キスぐらいいいじゃんね?」
「あー…うん、悪くないかも」
 俺は酔っていた。今さっき知り合ったばかりの少女にキスをされても、それが普通のことのように思えてしまうほど。
「ねえ、お兄さんの名前教えてよ」
「…和輝」
「あたしは梓。覚えといてね」
 そう言って悪戯っぽく笑った彼女を見て、俺は反射的に彼女のつやつやと光る柔らかそうな髪の毛を撫で、今度は自分からキスをした。

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