小雨が降っている。
 真夏の夜、昼の不快な暑気が残る空気が漂う街の中を当てもなく彷徨い歩く。
 辺りはネオンがてらてらと人工的に光り輝き、店先では無駄に肌を露出したお姉さん方が甘い声や甲高い声で男性客を呼び込んでいる。
 よほどそのお姉さん方と楽しく飲もうかと思ったのだが、如何せんこの寂しい財布の中身では相手にされないだろう。
 艶かしく光る胸元や太ももまで裂けたスリットから伸びる脚を未練がましく眺めていると、一人のお姉さんがこちらににっこりと笑いかけてきた。腕を絡み取られない前にと曖昧に笑みを返して踵を返す。

 夜でも眠らない街。この街が俺は嫌いだが、今だけはこの底抜けた明るさに気が紛れるようだった。

 つい先程、彼女から電話口でざっくりと振られた。こちらが何も言えない間にじゃあ、と言って彼女は電話を切った。
 何をしたという訳でもない。突然の別れだった。それでくさくさしてこの喧騒の中にやけくそになって身を投じた訳だ。

 目が眩みそうな程のネオンと笑い声と酒の臭いが漂う中を歩いていると、ついその雰囲気に自分も巻き込まれて気分が高揚する。

 このまま誰か良さげな女と寝てしまおうか。今ならば、道行く女の誰もが、俺のそんな軽くて甘い考えを責めないで受け入れてくれる気がした。

 その場に立ち止まってぐるりと周囲を見渡してみる。視界に映るのは酔っ払った男に女、派手な服装に身を包んだ奴等ばかりだった。
 ある者は大声で笑いながら道を歩き、ある者は歌い喚きながら大股で闊歩する。ある者は道端に崩れ落ちている。
 その隣に目を移すと、一人の少女が地面にしゃがみ込んで携帯を弄んでいた。

 歩み寄って少女に声を掛けると、少女が携帯から顔を上げた。その顔は今時の女子高生のような化粧をしていた。少女は付け睫毛に縁取られたまん丸の瞳で俺を見上げてぱちくりと瞬きをした。瞬間、ああ、頭が悪そうな子だな、と思った。目が真っ黒に塗り潰されていないだけマシかなともぼんやりと思った。

「お兄さん、暇なの?暇ならホテルぐらい付き合うけど」
 どうも地に足がついていないような話し方をする少女だった。ゆるくパーマのかかった長い黒髪の毛先を指でくるりと弄びながらこちらを見つめる少女は、まるで天気のことを話すかのようにあっさりと俺を誘い込む言葉を吐いた。俺はそれに酷くうろたえた。この少女の見た目とのギャップもあるのかもしれない。

「君はあれか、所謂援交とかいうやつやってんの?」
「うん、まあね。だからこーいうの慣れてるの。ところで、お兄さんはいくら払ってくれるの?」
「君の頑張り具合で決めようかな」
 少女は俺の言葉に酷く驚いたようだった。瞬間、ふわりとまるで天使のように微笑んだ。
 その時、不覚にも俺の胸が高鳴ってしまったことは彼女には言っていない。

- 1 -



←|





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -