数十分後、二人は学校から程近い喫茶店の中に居た。
 ――なぜ、アイスを食べる為だけに喫茶店に入らなければならなかったのか。
 その旨を問い質してみると、あっさりと答えが返ってきた。

「だってここのパフェ超んまいんだもん」
「…既にアイスじゃないじゃん…」
「いいじゃん別に。パフェにもアイスはのっかってんだからさ」
 そう言ってにっこりと笑う佐倉をげんなりとして見やる。彼はパフェにのっているアイスをつついて、幸せそうな表情でそれを口に運んでいる。

「亜紀はパフェ食べないの?」
「や、いい。これ以上出費かさむのも何だし」
 亜紀はコーヒーをゆっくりと啜りながら、財布の中身を危惧していた。
 今日は寄り道をする予定が無かったので、手元にはあまり持ち合わせていなかったのだ。
 その様子を見た佐倉が、少し考え込むように亜紀を見つめると、パフェから生クリームをひとすくい取って、亜紀の口元へずいと持ってきた。

「あげるよ」
「えっ?」
 突然のことに思わず素っ頓狂な声を上げた亜紀を見て、佐倉が笑った。

「だ、…だってそれ、佐倉君が使ったスプーンでしょ?」
「うん」
「間接キスになるけど?」
「うん。そうだよ。だから?」
「いやいやいや駄目でしょう問題ありありでしょう」
 佐倉は思い切り顔の前で手を振って否定する亜紀を不思議そうに見た。そして、亜紀に有無を言わせずスプーンを亜紀の口の中に突っ込んだ。

「ふひゃっ?!」
「食べてよ。俺ばっか食べてて、何か変じゃん」
 それに、と佐倉が言葉を続ける。

「俺、生クリーム嫌いだから、食べるの手伝ってよ」
 亜紀は、思わず佐倉の言葉に咽返った。一通り咽終わってから、目の淵に少し涙を溜めて佐倉を睨みつける。

「嫌いならパフェなんか頼まなきゃいいじゃん!」
「え、でもアイス美味しいし」
「アイス単品で頼めばいいでしょー!」
 すると、佐倉は怒り心頭の亜紀の顔を見つめていたかと思うと、突然噴き出した。

「ちょ、ちょっと、亜紀、口に生クリームついてるよ」
「あんたが無理やり食べさせるからでしょー!」
 腹を抱え、まさに抱腹絶倒状態の佐倉を見て、益々腹が立ってきた亜紀は、恥を忘れて半ばやけくそで言い放った。
「食べればいいんでしょ、食べれば!」

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