反射で未だ教室の中に残って外を眺めている佐倉を見やる。すると、彼はこちらに気付いてにっこりと笑う。

「あいつ顔も悪くないしさ。行っちゃえ!」
「…美紅、何か楽しんでない?」
「いや別に?」
 言葉とは裏腹に美紅は満面の笑みでこちらを見つめる。

「でも、なぁ」
「亜紀ちゃん、一緒にアイス食べるだけじゃん。大丈夫だって!」
 麻美までもが勧めてくる。まぁ、麻美は言葉そのままの純粋な意味で言っているのだろうが。
 つらつらと考えていると、不意に気配を感じてそちらを見やると、すぐ近くに佐倉が立っていた。
 驚いて思わず身を引くと、佐倉は不思議そうにこちらを見つめる。

「アイス、奢ってくれないの?」
 絶句して美紅と麻美の方を見やると、二人揃ってにやにやしながら素早く退散する所だった。

「…やっ、…奢ります…」
「そう?じゃ、行こうか」
 返事をしようとすると、佐倉が突然自分の手首を手に取ったので、驚いて声も出せなくなる。
 うまく事態が呑み込めなかったが、漸く理解して一気に顔が火照る。佐倉を見やると、彼は平然とした表情で自分の先をずんずんと歩んでいく。

「あの、佐倉!……くん、ちょっと」
 ようやっと声を絞り出すと、彼は足を止めてこちらを振り返る。その間も、自分の手首をしっかと握りしめて。

「んー、何?えっと…」
「上野です…」
「上野さん、ね。名前は?」
「亜紀ですけど…」
「じゃあ、亜紀。何?」
 彼の言葉で心臓が跳ね上がる。
 ――今、何て?

「な、何で名前で呼ぶの?」
「え、いいじゃん別に。駄目っすか?」
「いや、駄目じゃないけどさ…」
「じゃ、いいじゃん。亜紀でさ」
 瞬間、にこりと笑った佐倉に、不覚にも見とれてしまった自分が居た。

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