瞬間、思わず目をみはる。隣の少年と目が合い、数秒見つめ合う。
「……あぁ、こないだの?」
間違いない。この間、私が智也にフラれた所を見ていたあの男だ。
そして、思いきり脛を蹴った…
それを思い出して、思わず脛に目をやるが、今は当然制服のズボンに隠されて見えはしない。
しかし、思いきり蹴ったのだから、相当酷い青痣になっているに違いない。
自分の視線に気付いたのか、佐倉少年は、悪戯っぽく笑い、ズボンを捲り上げた。
「すっげえ痛かった」
そこには案の定、酷く大きな青痣が広がっていた。
「ご、ごめ・・・!」
「いいよいいよ。ちょっとどころかかなり痛いけど、日常生活に問題は無いし」
「うっ・・・」
「歩く度にずきずきして痛いんだけどなぁ」
佐倉は表面上は朗らかに笑いながら、ちくちくと亜紀の胸に罪悪感を植えつけていく。
何も言い返せずに絶句する亜紀に佐倉は畳み掛けるように話しかける。
「帰りにアイス、奢ってくれる?」
「……はい…」
観念したように音を上げる亜紀に、先程よりも余程人の悪そうな笑みを浮かべて条件を吐き出した。
******
「ちょっとちょっと亜紀、佐倉と知り合いか何かなの?」
新学期一日目とは早いもので、ホームルームと始業式と大掃除が終われば下校の時間になる。
部活動も今日は休みのところが多いようで、皆がそれぞれにお喋りをしながら教室を出て行く。
自分が所属している陸上部も今日は休みだが、朝のホームルームで佐倉に言われた言葉が引っ掛かり、帰ろうにも帰れずにいた。
そこを美紅と麻美から教室の外まで連れ出され、朝の出来事の尋問を受けているという訳だが。
「うん、まあ・・・」
「・・・て、いうか半分脅されてたよね。あいつに何かした訳?」
「ちょっと、これには事情が・・・」
そこでかいつまんで自分の告白シーンを見られた挙句に大笑いされたこと、その際に佐倉の脛を思い切り蹴り飛ばしてきたことなどを二人に説明した。
「・・・ぶっ、あはははは!」
その説明を聞いた途端、今まで真面目な顔で話を聞いていた美紅は腹を抱えて爆笑した。
「ちょ、ちょ、何それ!超うける!蹴ったって!」
「いや・・・恥ずかしかったし、ムカついて・・・」
「そうだよ!人の告白シーンを見て爆笑するなんて失礼にも程があるよ!だから亜紀は悪くない!」
「でもさ、あんなにおっきな青痣つけちゃって、悪いとは思ってるんだよ」
そこで一通り笑い終えたらしい美紅が、目に涙を溜めながらも意見する。
「もういいじゃん。今日部活休みなんでしょ?だったらこれから佐倉にアイス奢ってくれば一件落着でしょ」
- 3 -
←|→