四月になると、新学期が始まった。
 亜紀は無事二年に進級し、新しいクラスの名簿を見ようと人垣の上から首を伸ばしていた。

(三組か)
 名簿を確認したので戻ろうとすると、いきなり後ろから抱きつかれた。

「亜紀ー!クラス一緒だねー!」
「え、マジ?やったじゃん!」
「超嬉しいよー!」

 半分泣いている彼女――麻美を見て、亜紀は苦笑いする。

「何、泣く程嬉しいの?」
「当たり前じゃん!去年は一緒のクラスじゃなかったけど、今日から卒業までずっと一緒に居られるんだよ?」
 ここの学校は、一年と二年の間でクラス替えをし、二年から三年まではクラスが変わらない。したがって、二年間同じクラスで生活をする事になる。

「部活も一緒に行こうね!」
「去年だっていつも一緒に行ってたじゃん」
「いーの!」

 麻美と一緒に教室に入ると、途端に四方八方から声を掛けられる。

「おー、亜紀、麻美。おはよー」
「おはよー」
「美紅ちゃん聞いてー!あたし亜紀と同じクラスになったんだよー!」
「うん、見れば分かるね」
 麻美が美紅にじゃれついている間に、自分の席を確認すると、窓側の後から二番目の席だった。

「いやーっ!亜紀と席が離れたーっ!」
「授業の時くらい離れてないと亜紀が窒息死するから」
「美紅ちゃん酷い!あたしはこんなに亜紀の事が好きなのに!」

 そんなやり取りを一切受け流し、自分の席へとつく。
 自分の席からは、海が一望出来る。
 自分が所属する陸上部では夏に強化合宿があり、砂浜でトレーニング等をするのだろうと思った。去年行った強化合宿を思い出し、思わず顔を顰める。

「ほらお前らー、席につけー」
 担任は、今まで各々お喋りをしていたグループが散り散りに自分たちの席についたのを確認して、そのまま新学期最初のホームルームが始まった。


 大して面白くもない話が続く。
 新学期だからといって、入学当初のような緊張感があるかと言えば、そうではない。
担任が、中だるみがどうの今が大事だのと熱く語っている傍ら、皆がそれぞれにお喋りを続け、和やかな空気の中でホームルームの時間が過ぎてゆく。
 その緩んだ空気にの中でうたた寝をしていた亜紀の意識が教室の扉を開ける音で現実に掬い上げられた。

「おい、佐倉ー。新学期早々遅刻とは何様だー?」
「すみませーん、寝坊しましたー」
 言葉とは裏腹にのんびりとした口調で声を掛ける担任に、教室に入ってきた佐倉という生徒が、これまたゆるりと返事をするのが聞こえた。
 教室のあちこちで忍び笑いが起こったが、彼は気にした風もなく教室を横切り、歩く音がする。
 足音がこちらに近付いてくるのを感じて視線をそちらにやると、優男風の少年が自分の隣の席に鞄を置いたところだった。

(……あれ?)
 ふいと視線を窓に戻して、ふと既視感を覚える。どこかで、この少年と会ったような。
 ――所謂、デジャヴというものか。
 再度視線を少年に移すと、彼もまたこちらの視線に気が付いたようで、顔をこちらに向けた。

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