出会わなければ良かった。
今になってそう思う。
******
「好きです!」
思ったよりも大声で、しかも裏返った声が出てしまった。
あたしは、目の前に立っている彼、智也に、今この瞬間、一世一代の告白を試みた。
突然の私の告白に目を丸くしていた彼は、表情を和らげ、私に――
「ごめん」
一人残された校舎裏で、呆然と立ち尽くす。
振られたんだ、あたし。
ともすれば涙が出てきそうになるのを止めたのは、背後から聞こえた笑い声。
「え、…ちょっ!今の見てた!?」
「ご、ごめ、偶然…ははっ!」
失礼な事に、目の前の男は笑いを堪えようともしていない。腹を抱え笑い転げるその態度に非常にムカつきを覚え、思い切り脛を蹴ってやる。
「――っいってぇえぇえ!」
「死ね!この覗き魔が!」
蹴られた脛を抑えて絶叫する男をその場に残し、全力で走り出す。陸上部の健脚ナメるなよ。
暫く走って、息が切れてきたので、漸う息を整える。
すると、今まで全力で走っていたせいで忘れていたものが、不意に心の中に溢れてくる。
(ああ、そうだ。あたし、振られたんだな)
ゆっくりと進めていた歩を止め、思いに耽る。
柔道部で、見かけによらずいつも私に優しかった彼。
「――だーっ、もうっ!」
ぐだぐだ考えるのはやめにしよう。
彼に告白して、失恋した。もうこれからどうこうなる訳でもないのだから。
でも。
彼の優しい笑顔に、先程の少年の顔が重なる。
――あの少年は、一体誰だったのだろう。
あの時は、失恋した場面を見られたショックと恥ずかしさで、勢いのままに蹴り飛ばしてきてしまったが、よく考えれば初対面の人間にいきなり蹴りを入れることは、常識的に考えて、いや、どう考えても失礼すぎる。
確かに、少年が自分を笑っていた事には腹が立ったが。
(大丈夫かな、あの人)
蹴った部分が、青痣になんかならなければいいけれど。
- 1 -
←|→