気が付くと、思っていたよりも時間が経っていたようだった。辺りは夕闇に沈み、亜紀と淳平の影が長く地面に伸びていた。

「ん、もう帰ろ。誰かさんに気遣って腹減ったし」
「それはどうも…」
「冗談だよ。でも腹減ってんのはマジ」

 そう言ってにやりと笑う淳平を見て、亜紀もベンチから立ち上がる。
 ふと淳平を見やると、自分とあまり目線が変わらない事に気が付いた。

「ねえ、佐倉って身長何センチ?」
「んー、172センチくらいだったかなー。何で?」
「や、別に」
 ふーんと淳平が相槌を打つ。彼が172センチということは、自分とは2センチしか身長が違わないではないか。
 かかとの高い靴を履いたらすぐに追い越せてしまうその差に、亜紀は内心落ち込んだ。

「…ってやべ、電車乗り遅れる。て事で俺行くわ!また明日!」

 そう言い残し、亜紀が返事をする間もなく全力で駆けて行く淳平を見て、亜紀は自然と笑みが零れていた。

******

 翌日。よく晴れた四月の空に、二人の男女の声が響き渡った。

「お前それパンツじゃねーんだから見えたって支障ねーだろ?!」
「うるさいー!レディーのスカートの中身見ておいて自己保身?!恥を知れー!」
「誰がレディーだよ!階段の下居りゃあ見えるってそんな短いスカートはいてりゃさあ、てかペンケース投げてくんなよ、中のシャーペンが頭に突き刺さったらどうする!」
「そのまま死ね」
「え、ひどっ!」

 昼休み、移動教室から帰ろうとした亜紀達の背後から淳平が声を掛けた事からこの騒動が始まったのだった。
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける二人を見て、周囲からは笑い声や呆れたような声が起こる。

「ほらほら亜紀、仲良くケンカしてないで教室帰るよ」
「何それ聞き捨てならないよ美紅。これのどこが仲良いっての?」
「超仲良しじゃん」

 含み笑いをしながら答える美紅に渋い顔を向ける亜紀。その隣で麻美が苦笑いをしている。

「だってあんたら付き合ってんでしょ」
「はっ?!何それ誰言ってたの?!」
「えー、だって結構有名だよー?亜紀ちゃんと淳平君が付き合ってるって噂ー」
「それ事実無根ですから。二人とも本気にしないで」
「ふーん?」
「えー、違うのー?亜紀ちゃん淳平君とお似合いだと思うんだけどなあ」

 ――お似合い。
 後ろを振り返ると、淳平がこちらに向かって思い切り舌を突き出している所だった。

「……あれとお似合いとか言われても全然嬉しくない」
「またまた。素直になりなよ」
「だからー、違うって!」
 必死に否定する亜紀に対して軽く相槌を打ちつつ、美紅と麻美が亜紀を教室へと引っ張っていった。

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