いつもと変わらない朝。
 だけど、外からは静かに浮かれた空気が忍び込んでくる。それを振り払うようにして、ベッドから抜け出した。
 パンにバターを塗り、コーヒーを淹れる。バターの香ばしい薫りとコーヒーの深みのある薫りが交差して鼻孔をくすぐる。
 コーヒーをすすると、ゆっくりと脳が覚醒していく音が聞こえる。その合間に聞こえた、微かな声。
 沈んでいた思考から浮き上がって、ついと部屋を見渡してみる。
 質素な部屋は、いつも通りに沈黙している。そっと目を閉じると、再び聞こえた。

 コーヒーを片手にリビングのカーテンを開けてみると、みすぼらしい恰好の小さな黒猫がこちらを見上げていた。
 窓を開けると、冷たい外気が剥き出しの肌を刺して粟立たせる。
 それに構わずに子猫を抱え上げ、部屋に入れてやる。小皿に牛乳を入れて目の前に置いてやると、こちらを見ながらおずおずと飲み始める。それを見ながら、子猫の背中を撫でてやる。

「お前、一緒だね」

 出かけようと玄関に出て行くと、子猫も小走りになってついて来る。振り向くと、こちらを見上げて無邪気な鳴き声をあげる。

「帰りにキャットフードとミルク、買ってきてあげるよ」

 外へ一歩踏み出すと、いつも通りのようで、少し違う空気が自分を包み込む。白い息を吐き出し、マフラーを引き寄せる。家に居る小さな子猫を思って、口元が緩んだ。


2009年 12月25日 沢村 詠






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