浴室を出てリビングへ行くと、自分がシャワーを浴びている間に帰ってきたのであろう男が、ソファの上でだらしなく寝そべっているのを認めた。

「起きなよ、タカ」
 この男と同棲を始めて半年になるか。結果、彼は一般男性によく見られる、軽くだらしない性格の持ち主だという事実が判明した。そんな彼だから、仕事から帰ってきた恰好のままで、ソファの上で眠りこけてしまうのだろう。ソファに腰を掛け、恋人の顔を覗き込む。淡い茶色の髪は柔らかく、手触りが良い。男のくせに色白で、肌も綺麗だ。

「風邪引くから起きなって」
 タカの双鉾がゆるゆると開く。

「……美佳」
 最初に私の頬へ手を触れ、湿った髪を手櫛ですく。

「……美佳から良い匂いがする…」
 そう言って、そのまま私を抱き寄せようとする。その手をぴしゃりと叩いてやると、きゃっと悲鳴を上げて、手を引っ込める。

「あたしシャワー浴びたから」
「俺は美佳が欲しいー」
 だだっ子のようにソファの上でじたばたする彼を見て、軽く嘆息する。

「今は駄目」
 すると、奴は私の言葉を聞いてぱっと顔を輝かせる。

「これからいっぱい愛してやるぜ!」
「はいはい分かりました。早く風呂入っといでよ」
 ひらひらと手を振ってやると、奴はスキップしそうな勢いでリビングを飛び出してゆく。
 それを見送ると、冷蔵庫からビールを取り出し、それを片手に手早く夕食の用意をする。

「美佳ー、一緒風呂入ろー」
 騒々しい彼の声が聞こえてきて、思わず顔が緩む。

「いいよ。一緒に入ろうか」
 いつもの光景。いつものやり取り。何でもない日常が、私にとってとても大切だったりする。彼も私と同じような事を思ってくれていたら、嬉しい。

(「ね、タカ」)
(「んー?」)
(「キスしようか」)

 今日は、ちょっと甘めの夜にしよう。

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『giggle』
くすくす笑い。


2009年11月29日 沢村 詠






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