「まさかこんな所で会うとはなあ」
 彼がからからと笑いながら、泡立つビールを一口飲む。

「何年ぶりだっけ?」
「高3の時以来だから、七年ぐらい経つな」

 もう、そんなになるのか。しかし、彼はあの頃と全く変わらない笑顔を私に向けている。それを見ると、私たちの間にあった七年なんて無かったように思える。

「お前は全然変わってないな」
「え?」
 彼がまっすぐに私の目を見て、微笑む。不意に、どきりとしてしまった。

「昔と変わらず大食いだー」
「なっ…!」
 赤面する私を見て、げらげらと大笑いする彼。そんな彼を見て、不覚にもときめいてしまった先程の自分が馬鹿らしく思えてくる。

「あ、でも今は大飲みも加わって更に手強くなったな」
「失礼な。あんたはレディに対する礼儀ってもんを弁えろ」

 軽やかに時間が過ぎていく。彼と二人で、時間を忘れて笑い合った。

「あー、楽しかった!」
 酔って火照った体に冬の寒風が沁みこむ。ふう、と息を吐くと息が白く染まり、それを見て彼と二人で年甲斐もなくはしゃぐ。何でもないことの筈なのに、笑えて仕方がない。

「あたしさあ、あんたと別れてから、妙に空っぽでさ」
 大学に進学して、卒業して無難にどこぞの会社に就職して。毎日毎日、ひたすらに働いて。

「取引先とかで顔は笑ってるんだけどさ、心の中には何もなくてさ」
 酔いのせいか、自分から溢れ出てくる言葉は、堰を切ったように止めどなくこぼれていく。久しぶりに彼と会って、口元の筋肉が弛緩してしまったように自力で言葉を止めることは出来なかった。後ろに居る彼がどんな顔をしているのかはわからない。だが、話に耳を傾けている気配がする。

「でも、今日あんたと会ったら、心がいっぱいになった」
 いつの間にか、駅へ向かう足は止まっていて、ふ、と一つ息を吐き出す。

「……好き」
 まだ、あんたのことが。
 ぽつりと呟いた一言は、深夜の通りの喧騒に掻き消される。

(…何を、今更)

 もう遅い。
 何故、それをあの時に言わなかったのか。自嘲気味に苦笑し、後ろを振り向くと、柄にもなく真剣な顔をした彼がその場に突っ立っていた。かちりと二人の視線がかち合う。そのまま、彼は滔々と言葉を紡ぎだす。

「ずっと、後悔してた」
 別々の大学に進むからと、彼女に別れを告げた。彼女はそれを聞いても泣きもせずに、無言で首肯した。彼女の瞳には何も映っていなかった。目の前に立っている筈の自分さえも。

 あの時の彼女は、何を思っていたのだろう。

「大切なものを、手放してしまって」
 それは、目の前にある。その紅くなった頬にそっと手を添えると、微かに身震いをしたのがわかった。
 彼女は彼をじっと見つめた。あの頃と変わらない優しい笑顔を、優しい口調。目の前に居る彼が、愛しくて仕方なかった。

「     」
 はっきりと発せられた言葉を耳が拾うと同時に、唇に温かいものを感じる。懐かしい、彼の匂いがする。どうしようもない感情が膨れ上がって、それが熱くなった眦から一筋零れ落ちた。

 ******
※邂逅…思いがけなく出会うこと。めぐりあい。

2009年11月13日 沢村 詠






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