コンビニ業務とは暇そうに見えて、意外と忙しいものだ。
 出勤してすぐに出入り口を掃除し、日勤の奴が残していった仕出しの後始末をし、店内の掃除をし、フライヤーで揚げ物類を作る。その間、客は絶えない。
 あー、めんどくせーな。何で俺コンビニの店長なんかやってんだ?制服ダサいし時給低いしやってらんねーよ。

 はあ、と吐いた溜息の向こう、彼女が出勤してきた。相も変わらずのマイペースっぷりである。ちなみにまたセーラー服を着ている。面接の際は19歳のフリーターだとか言っていたのだが。女子高生である事はバレバレなのに(ああ、コスプレ趣味の子とかだったらアレだけど)彼女は今でもへらりとした笑顔でシラを切り通している。

「てんちょーお、おはよお」
 語尾を伸ばすムカつくような口調も健在である。

「はいはい、早く仕事してね牧野さん」
「はぁい」
 ふんふん、なんて鼻唄を歌いながら、牧野は従業員専用と書かれた扉の奥へと消える。暫くして、あのダサい制服をきちんと着こなした牧野が現れて、俺の前に小走りで走り出ると、
「てんちょーお、好きー!」
 なんて言って、正面から抱きついてきたりする。これはちょっと日常とは違うかも。

「いやいやいや?牧野さん、今仕事中」
「好きー好きー、てんちょの声と髪と眼鏡と手と細くて身長が高いとこと、うー、全部好きー」
 どうしよう。何か俺まで痛い目で見られてるよ。ちょっと客足引いちゃうやめて。
 とか言いつつ、本気で拒否しないあたり、俺もこいつに毒されてきたのやもしれん。
 ああもういいから、レジ打ち手伝ってよ!

「今度私の生パンツあげるね〜」
 うっわ何言ってんのこいつ。マジどん引きなんだけど。客もだいぶ引いてるぞおい。どうせお前のはいてるパンツなんて苺柄とかクソガキがはくようなやつだろ。そんなん要らねーわ。

 俺の顔を見てどう判断したのか知らないが、牧野は俺を見るとあのへにゃりとした笑顔になり、「可愛い」と言って頬にキスをしてきた。

 ダメだこいつ。明日あたり解雇しようかな。
 熱を持った頬を押さえて、俺は好奇の目で見てくる客の対応に集中した。


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彼女の持つ真実

2011年08月26日 沢村 詠



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