一昨年の夏の別れは後に私にとって耐え難い傷となったけれど、それは彼にとっても同じだったのだろう。
 いや、私などより遥かに辛かったに違いないのだ。
 後から苦しくなったのは私だけれど、ずっとずっと泣いていたのは彼だ。

 幼い私が出した答えは完全ではなくて、彼もそれを受け入れられなくて
 泣いて 泣いて 泣いて
 私は全てを忘れようとして 彼は寂しさを埋めるようにして、私たちは別れた。

 でも、一旦別れた道が再び繋がって
 胸が締め付けられるようだった。
 もう 戻れない
 そう思うと涙が止まらなかった。

『今だけは俺の恋人でいてくれ』

 この台詞はこの先幾度か重ねられることになる。


 あの時委ねられた決断を違う道に下していれば、私は今でも彼と一緒に居たのだろうか?
 ――答えは否だ。

 なぜか。そう言い切れる訳ではないけれど、たとえ一緒に居たとしても、私は彼を何度も苦しめ傷つけただろうと思うのだ。
 そうなることが予想されるから、今の結果が最善だったと言えるのかもしれない。

『本当にそうだろうか?』『彼と一緒に居たかったのではないか?』『彼と共に幸せになれたのではないか?』

 以前はそこで立ち止まってしまっていた。何度でも立ち止まって、何度でも引き返して、何度でも彼にたどり着いた。
 彼が別の子を好きになっていたという事実が私を苦しめ、私のことを過去に出来ない彼は苦悩した。
 何度も 何度も 何度も

 その度に彼はあの子に戻っていって、私は一人泣いた。

 いっそ嫌いになってしまえればお互いに楽だったのにと思ったりするけれど、何だかんだ彼との思い出は私の中に大切に仕舞ってある。時々それらを取り出して眺めてみると、一瞬であの輝かしかった季節の気持ちが蘇ってくる。


 あれから二年が経ったんだね。
 色褪せることのない鮮やかな記憶が私の中から溢れ出しても、もう泣いたりしない。

 笑ったこと、驚いたこと、怒ったこと、泣いたこと
 大好きだったところも、嫌だったところも全部覚えているよ。


 さようならは言わない。ただ、力いっぱい抱きしめて、ありったけの愛を込めて言ってやりたい。

『 ありがとう 』

 ありがとう。君のおかげで私は成長出来た。
 ありがとう。君が私に愛を教えてくれた。
 ありがとう。大切な時間と記憶をありがとう。


 大好きで仕方がなかった君へ、永遠に届かないラブレターを。

2010年08月27日 沢村 詠





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