あいつと仲良くなったきっかけはごくありふれたもので、同じクラスで初めての席替えで隣の席になったということだった。
 いつもヘラヘラと人懐こそうな顔を浮かべたあいつに、私は妙に懐かれていた、と思う。

「***さん」

 自分の名を呼ばれて隣を見ると、ぱっと目を逸らす。自分から呼んでおいたくせに失礼な奴だと思いながらも返事をすると、はい、と相変わらず私の目を見ずに綺麗に折りたたまれた紙を渡してくる。
 それを広げてみると、たった数文字だけでも私に衝撃を与えるには十分な言葉が連ねてあった。
 私は笑いを噛み殺してあいつの肩を叩く。勿論例の紙は返さずに、だ。

「それは授業中に言う台詞じゃないと思うよ、****君」
「そう?で、どうするの?」
「いいよ」

 その瞬間、私は堪えきれずに噴き出した。あいつはいつもと同じようにヘラヘラと人懐こそうな笑みを浮かべていたけれど、今の私にはそれが少し眩しいものに見える。
 よろしくね、と呟いたあいつの唇の端がきゅっと吊り上がった。

『君が好きだ 俺と付き合おう』

2010年07月07日 沢村 詠





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