僕達は、いつも一緒だった。
 僕と由比(ゆうひ)は同じ母親から生まれ、二人一緒に育ってきた。出かける時は、常に手を繋いでいた。家に帰った後も、お互いに片時も傍を離れなかった。

 顔も一緒。身長も一緒。好きなものも一緒。何をするにも、僕達は同じだった。

「本当にそっくりね」
 僕達に対して、行く先々で出会う大人達は、常に同じ事を僕達に言った。友達も、皆僕達がとてもそっくりだと言って驚いていた。

 違う。そんなんじゃない。僕達は二人で一人だった。
 僕が見た世界が君の世界になり、君が見た世界が僕の世界となった。

「由比、僕達はずっと一緒だよ」
「由宇、僕達はいつも一緒だよ」


 ある日、僕達は母さんに買い物を頼まれて、いつものように手を繋いで外に出た。
 外はうだるような暑さで、繋いでいる手がいつの間にか汗ばんで湿っていた。
 それでも僕達は手を離さずに、お互いの指をしっかりと絡め合って歩道を歩いていた。

 頼まれたものを買って、帰ろうともと来た道を戻り始めて、数分もしないうちだった。
 突然轟音が背後から僕達を襲い、刹那の間、僕達の世界から音という音が消え失せた。
 周囲で誰かが大きな声で叫んでいる事に気がついた時、僕達は見知らぬ大人達に上から覗き込まれて囲まれていた。どうやら僕は、地面に倒れ込んでいたようだ。

「大丈夫かい。怪我は無いかい」

 ぼうっとして辺りを見回して、はっと気付く。僕は、いつの間にかしっかりと繋いでいた筈の手を離してしまっていたのだ。

「由比、由比」

 焦って辺りに視線を走らせると、視界の端に由比の後姿を確認した。ここから見た限りでは、気絶しているように見える。
 由比を見つけて、ほっと安心して由比に駆け寄ろうとすると、大人達が僕を阻んだ。

「見ては駄目だ…!」

 顔を歪めて、大人達の中の一人が僕を押し留める。僕はそれに対して疑問を抱いた。
 だって、由比があそこで倒れてる。起こしてやらないと、手を繋いでやらないと、目が覚めた時に僕が居なかったら、きっと不安で泣いてしまうだろう?

「ねぇ、離して。由比は僕が居ないと駄目なんだ。起こしてやらないと」
「駄目だ!」

 僕を押し留めていた大人の腰の辺りから由比の元へ行こうと顔を覗かせると、鋭い叫び声が響いた。

「由、比……あれ?」

 由比は、全身を朱に染められていた。ぐったりと目を閉じて、顔には血の気がなく、ただでさえ白い肌がますます白く浮き立っていた。
 由比の周りにも僕と同じように大人達が集まり、切羽詰まったように電話を掛けたり、布で由比の身体の一部を縛り付けたりしていた。
 
「見ちゃ駄目!」

 甲高い女の人の声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には僕の視界が女の人の身体で隠されてしまっていた。僕は、何が起こったのか分からず、ただ呆然と弟の名前を呟いた。

(――由比)


 その日、僕の世界は失われた。




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