一万打記念 | ナノ







目の前の光景にリヴァイはただでさえ悪い目つきがさらに悪くなるのを抑えきれなかった。
誰が我慢出来ようか。
今まで真綿に包むように大切にしてきたミラ。壁外調査は絶対自分の隣。通常の仕事においては自分の部屋から滅多に出さない。休日は合わせて取り、その日は一日リヴァイと過ごす。今までは大丈夫だった。自分が睨みを効かせれば大抵の男は引き下がったのだから。だが、今回は違う。
リヴァイは目の前の光景に盛大な舌打ちをした。


「ミラさんってめっちゃ軽いっすね!」

「えへへー。エレン高ーい!」

「まぁ、俺そこそこありますから!(得意気)」

「いや、なら俺がやってあげますよ?高い高い。」

「うわぁ、ジャンも高いから楽しそう!」


「いやいや、なら俺がやりますよ!」

「ライナーも高ーい!」


クッソ!リヴァイはもう隠すけことなく目の前の出来事に舌打ちした。
104期生がミラを可愛い可愛いと言っては近付いて来てるのは知っていた。ああ、そうだ。ミラは可愛い。だが、今までは自分がいたからある程度は払い除けられていたのに、今回は違った。
何故か104期生は皆腹が据わっており、しかも彼らは隠す事なくミラに可愛い可愛いと言い続けている。しかも、普通にしてはミラの気を引けないのを知ってなんと彼らはリヴァイに出来ない事をしてミラの気を引く作戦に出たのだ。


「(クッソ!身長はどうしようもねえ!)」


ミラよりは高い。そう、ミラよりは。
小柄なミラより高いだけで皆発育がいいのだ。
ならば、と。リヴァイはポケットに忍ばせていた小瓶を手にした。

「オイ、ミラ。菓子をや……」

「ミラさんっ!次は肩車ですよ!」

「わあい!ライナー高い高い!」

「オイ、ミラ。飴を……」

「ミラさんっ!次はおんぶですよ!」

「わあい!ジャン背中広ーい!」

「オイ、ミラ!ビスケットを……」

「ミラさんっ!次はお馬さんですよ!」

「エレン…微妙。」

「ええ?!」


そう言われ、ショックを受けるエレンにリヴァイはザマァと笑った。
しかし、そんなリヴァイを見たエレンはムッとしながらミラを見つめて爆弾を投下したのだ。


「ねぇ、ミラさんはリヴァイ兵長と俺ら。どっちが好きですか?俺らなら肩車もおんぶも何時でもやれますよ!」



削いでやる!今すぐ削いでやる!
リヴァイの目は殺意に燃えていた。身長などという下らない武器を使いやがって。身長なんて……っ!



「んー。」



そう言って104期生を見てから、後ろにいるリヴァイを見たミラはまたんー。と悩み始めた。



「(悩んでんじゃねえ!)」



悲しいかな。ミラは悩んでいた。



「うん、決めた!」


おお!と周りがざわつく。さぁ、どっちにしますかとエレンは鼻息荒くミラに近づいた。


「肩車はまた今度ね。やっぱり兵長とお仕事した方が早いから。」


ええええ!そっち?好意とかそんなん無視してそっちですか?!


「え…いや、好きな方を…。」

「好きなのはリヴァイさんだよ?」(アッサリ)


何言ってるの、当然でしょ。と当然の様に言うミラにエレンを始め104期生は眩暈がした。なんだ、今までやった事は無駄だったのか。いや、もしかしら最悪ちょっと遊ぶには最適な相手としか認識してないのかも知れない。


「だそうだ。諦めろガキ共。」

「リヴァイさん!」


タイミングよく現れたリヴァイはこれまた得意気な顔をしてミラの肩に手を回した。


「ミラは俺と付き合うんだ。相手が悪かったな、ガキ共。」


「……まだミラが返事してないじゃないですか!」

「んなもんいらねえんだよ。なぁ、ミラ?」

「はぁーい!」


元気良く返事をするミラにエレン達はわあわあと慌てた。
何言ってるの付き合うというのは恋人同士になるという事であんな事やこんな事までするのだと言ったらミラはまたケロリと言い放った。


「私のファーストキスも処女も入団した時からリヴァイさんのものだもの。もちろん私の未来も。」

「ミラ……っ!」

「だからあんな事やこんな事なんて別に気にしないよ?」


寧ろ本望だわ。と言ってのけたミラにエレンは膝を折った。まさか敵はそこまで洗脳していたとは…っ!
ニコニコと笑うミラとニヤリと不敵な笑みを浮かべるリヴァイ。
リヴァイはそんなミラをヒョイっと抱き上げると足取り軽くその場を後にした。



「あれ?リヴァイさんどこ行くんですか?」

「ああ?恋人同士になったらまずは処女を貰うのが常識だ。覚えておけ。」

「そうだったんですか!知りませんでした…。」


んな常識があってたまるか!エレン達はそう思ったが、その声はミラには届かなかった。
可愛い草食動物を狩る凶悪な肉食獣。
悲しいかな。その草食動物は捕食された事にもマーキングされた事にも気付かない。
ただ黙って食べられる。

エレンはその小さく逞しい背中を見て決意する。ならばこちらはこちらの常識を植え込むまでだと。
素直で可愛い天使は俺のものにしてやる。そう決意するとエレンは手を血が滲むまで握り締めた。

















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