「…むむ、……」
「……………」
「……んー、…」
「……………」
「うーん………」
「…何が聞きたいんだ…」
「え?!どうして分かったんですか?」
あんだけ唸って見てりゃ誰でも気付くだろうが。そう言いたいのをぐっと堪えてリヴァイはうんうん唸るミラへと身体の向きを変えれば、眉間に皺を寄せているミラと目が合った。
「眉間に皺寄せてると老けるぞ」
「んなっ!まだまだこれからです!」
「いや、もうお前曲がり角に入るだろ…」
そう言えば「そんなことありません!兵長の意地悪!」と言ってミラはキッとリヴァイを睨みつけた。
「まだまだ若さを忘れてませんから!」
「潔く老いを認めねえのか…」
「老いって……老いって……っ!」
「そんな事よりさっきまでどうしたんだ?」
「そ、そうでした!」
そう言ってミラはじっとリヴァイを上から下までしっかりと見て真面目な顔をして言ったのだ。
「兵長の弱点って何ですか?」
「………はあ?」
「兵長って弱点らしい弱点無いじゃないですか!弱みとかコレだけは苦手とか!可愛い部下に教えて下さいよー」
「自分で自分を可愛いって…世話ねえな」
「欠片ほどの可愛いさはあるでしょう?」
「阿保だ馬鹿だと思っていたがここまでとはな…」
「んなっ!兵長それは私に対して失礼です!侮辱です!」
「……ついでに頭のネジも緩いときたら救いがねえな」
ギッとリヴァイを睨みつけるもリヴァイはそんなミラを相手にすることなく溜め息を吐いて目頭を押さえている。
デスクワークはからっきしだが腕っ節だけはいい。女なら普通逆だろうに。そう言われているミラ。
リヴァイに引き抜かれたはいいものの、ミラは期待を裏切らない不器用さであのリヴァイを呆気にさせたのも懐かしい記憶だ。
この程度は出来るだろうと渡された計算も全く出来ず、報告書一つまともに出された試しがない。
「ねー、兵長いい加減教えてくださいよー」
そう言ってリヴァイの袖を控えめに引くミラにリヴァイは気付かれないように小さく溜め息をついた。
「俺にだって失いたくないモンの一つくらいあるってのに……」
「…兵長ー?」
そう言ってリヴァイを見るミラを見れば「なんでこんな奴に惚れてるんだか…」と頭を抱えた。
女らしさなんて欠片ほども無い。縫い物や料理よりも狩猟や肉を捌くのが得意。そんな女をどうして可愛いと思うようになってしまったのかは分からないがこうして見上げてくる目を、服が皺になりそうなくらい握り締める手をふりほどけないでいるのだから。
ゆっくりとミラの額に指をあてがい、ペチンとデコピンをした。
「あいた!…痛いよー、へいちょー…」
「ちったあその無い頭で考えろ、馬鹿」
「また、また馬鹿って…っ!」
「まあ本当の馬鹿でも阿呆でも本当に嫌ってたら部屋にも入れねえんだが…」
「へ?…兵長?」
「続きは自分で考えろ。馬鹿ミラ」
そう言ってがしがしとミラの頭を撫でてガタンと音を立てて立ち上がれば未だにキョトンとしたミラと目が合う。
どうやらこの様子ではまだまだ答えは出なさそうだが馬鹿だ阿呆だと言われてもこうして懐いてくる辺り、どうやら自分にはまだまだ機会はありそうだとリヴァイは笑い、エルヴィンに渡す書類を手に部屋を後にした。
「…我が子のように可愛いってこと?」
まさか馬鹿で阿呆で恋愛に疎いとはその時リヴァイは知る由も無かった。