「ふふ、気持ちいー」
そう言ってぴちゃん、と音を立てて桶に張られた水を惜しげも無く晒されたつま先で軽く弾いた。
猛暑が続く今日この頃。内地だろうが何だろうが関係なく暑いものは暑い。そんな中、人々は様々な工夫を凝らして涼を取っていた。
ある人は木陰に隠れ、ある人は地下室に逃げ込んでいた。
しかし、大多数の人々は薄着をしてなるべく熱を逃がすようにしていた。水が貴重なこの世で水浴びなど贅沢が出来るのは一握りの貴族だけなのだ。
そんな中、ミラはひっそりと木陰で桶に冷たい水を張り、ズボンを脱ぎ捨てて短いスカートに履き替えて足首まで水に足を浸していたのだ。
普段からこんな贅沢な涼を取ったり出来ないが、たまたま調査兵団まで来たピクシスがミラにとこの桶と水をくれたのだ。
「うら若き乙女には優しくする主義でな」
そう言ってピクシスはわざわざ水を冷やしてミラに渡してくれたのだ。
それをエルヴィンに言えばあの爽やかな笑顔で休憩しておいでと言うではないか。エルヴィンとピクシスの好意を素直に受け取ったミラは調査兵団の中でも人気の無いこの建物裏に来て一人静かに涼んでいたのだ。
「ふふ、兵長も誘ってあげればよかったなー」
ぱしゃぱしゃと水を弾きながらそう言ってあの不器用な恋人を思い浮かべる。
「けど会議って言ってたし。それに二人で一つの桶に足入れるとか兵長は無理かもなぁ。あーあ、桶二つ持ってくればよかった」
何かと忙しいリヴァイと二人きりの時間を作るのは難しく、夜なんて互いに疲れ果てて泥のように眠るのがオチだ。しかし、それでも一緒に寝てくれるのはリヴァイなりの優しさなのか。
「やっぱり兵長呼んでこよーかなー。…ってか、ここも暑いなー。折角の木陰なのに無風とかちょっとキツイ」
そう言って手で顔を扇ぎながら自身のシャツを見れば、じんわりと汗をかいた為か白いシャツはピッタリと身体に張り付きうっすらと下着が透けて来ている。
「やだー、今日の折角のお気に入りのなのに!誰も居ないし、いっかー」
そう言ってプチプチとシャツの釦を一つ二つと外すと何やらざわりと周りの空気が変わり、思わずミラは辺りを見渡した。
「……、誰?誰か、いるの?」
そう言って周りを見ても辺りはしんと静まり返っており、人は見当たらない。
しかし、確かに感じるこのちくちくと刺さる様な感覚は間違い無く人の視線だ。
「や、…だ、誰?」
そう問いかけても突き刺さる視線は止まらず、次第に恐怖心が込み上げて来る。
巨人ならばまだ、うなじを削いでしまえばいい。しかし、人間相手に殺してしまえばいいという道理は通じないし仲間を手にかける事はしたくない。この視線の主が仲間かどうかも定かではないが。
しかも、今のミラはすっかりベルトも外して丸腰の状態であり、何か武器があったとしても腕に自信があるわけでもない。
先程まではうだるような暑さだったのに、段々と汗が引いていく。ちゃぷん、と足首まで並々とある水が音を立てるも、もうそれは涼しくも何ともなかった。
「やだ、怖い…っ!兵長、兵長……っ!」
恐怖に震え、真っ先に浮かぶのは愛しい恋人の姿。
やっぱり兵長に声をかけるんだったと後悔しながらも呼んでしまう。
こんな人気の無い所に来る筈は無いけれどいつだってリヴァイはミラを助けてくれた。だからかも知れない。もしかしたら助けに来てくれるかも知れないという淡い期待を捨てきれずにリヴァイを呼んでしまうのは。
「兵長、…お願い、兵長……へい、ちょぅ……」
「いねえと思ったらこんな所に居やがったのか」
「へ、兵長…っ!」
「なんだ、そんな泣きそうなツラして」
「だって、だって!」
「ああ、いいわかった。とにかく桶から足を出して拭け」
「…っ、はい、…」
そう言われてぐずぐずと鼻を啜りながら傍らに置かれたタオルで濡れた足を拭いた。
「なんか、変な…視線を感じて…。それで、怖くなったんです」
「…変な視線?」
「はい。気持ち悪くて…」
「……今俺が来た道には誰も居なかったぞ。ミラの勘違いじゃねえのか?」
「そう…でしょうか。けど、確かに視線を感じたんです」
そう言ってリヴァイを見上げればじわりと涙が浮かび、リヴァイはそれを嫌がる素振りも見せずに優しく指でミラの涙を拭い頭を撫でた。
「けど、兵長が来てくれたからもう大丈夫です」
そう言ってへらりと笑って見せるミラにリヴァイはやれやれと溜め息をつきながらもミラを抱き寄せるリヴァイは本気で呆れたりしていないのは分かる。
「しかしまあ、よくそんな服で来たな」
「あ、スカートですか?」
「制服はどうした。制服は」
「ズボンなんて暑いから涼むためにはスカートかなって。私服の中でも結構コレ、気に入ってるんですよ」
そう言ってぴん、とスカートの裾を掴むミラにリヴァイはズキズキと痛む頭を抑えた。
「大体、足が出過ぎだ。せめて部屋の中で履け」
「でもこんな所に人なんて来ませんし。大丈夫ですよー。私の足見て欲情する人なんていませんって!」
「ほう……」
「私の足ってホラ、太いし。あんまり魅力的とは言えな……」
「その足に欲情した俺はどうする」
「………はい?」
そう言ってひくりと顔を引きつらせてリヴァイを見上げれば、リヴァイはやわやわとミラの内腿に手を滑らせて撫で回している。
「肉付きのいい、柔らかな足だな。文句の付けようがない」
「ちょっ、……、」
「大体ここがよく人が来ないと思えたな。いいか。男ってのは女の居場所見つけんのは上手いんだよ」
「……、ぁ、…も、…やめっ、」
「俺がすぐ見つけたからあれで済んだものを。こんなに足出しやがって。いいか、もうこんな簡単に安売りしないように徹底して躾けてやるから覚悟しとけ」
「……ふ、…ぁ、……」
「ッチ。見てた野郎共も野郎共だが見せてたミラもミラだな。やはり少しばかりキツイ躾が必要か?」
「やめ、……、」
「せめて噛まれるか吸われるかの選択はさせてやる。早く選べ」
そう言ってどんどん進んでいく不埒な手にミラは為す術もなくリヴァイの襟を掴んでやめさせようとするが、そんなものは大した抵抗に入らない。
選べと言われて「こっちがいいです」と言える人間がいるかと思いながらも、じわじわとけれど確実にミラのいい所を突いてくるリヴァイを見上げる事しか今のミラに出来ない。
「まあ、俺の前だけでコレを履くのなら褒美をくれてやったが…」
「く、……ふ、ぁ……」
「全然なってねえ。イチからしっかりと躾けてやるから覚悟しとけ」
そう言って行為を押し進めて行くリヴァイを止めることなど出来るわけも無く、いつの間に押し倒されたのか硬い床の上で行為は進む。
ミラは知らない。まさかこの建物裏に来る道にリヴァイにやられた男達の無残な姿も、ミラを見つけた時に舌なめずりしたリヴァイの獰猛な顔もミラには知る由もない。