ん、と差し出されたそれにミラは呆れたように溜め息を一つ零した。
彼が類を見ない潔癖なのは知っていたが、ここまでとは。
「そんなに嫌なら食べなければいいのに」
「剥くのは嫌だが食うのは嫌いじゃない」
「けど…ん、今回のはなかなか手強いわね…」
そう言ってミラはコタツからするりと抜けると爪楊枝を取り出した。
「だいたい、いちいちみかんの皮剥いてって頼むのリヴァイくらいじゃない?」
「よそはよそだ。早くしろ、食いたい」
「んな無茶な。白いスジが多くて酷い…くのっ!」
「………」
「ほら、一切れ出来たわよ」
「みかん一切れに五分か。全部やるのに一時間もかけるなよ」
「なら自分でやりなさいよ!」
「手に匂いが付くだろうが」
そう言ってリヴァイはポイッとみかんを一切れ口に入れた。
このリヴァイと言う男、潔癖の癖に妙に手が汚れる物を好む傾向が強い。みかんしかり、キウイや蟹、ピザやらピーナッツ。そのどれもが手を汚して食べる食べ物であり、リヴァイの好物だった。キウイと蟹はみかんと同じでミラが綺麗に食べやすい大きさに切り、出してやる。蟹に至ってはほじってほじってほじりまくる。ピザやピーナッツはまだナイフやらフォークでどうにもなるが、このみかんや蟹はそうはいかない。特にみかんに至っては白いスジを一つも残してはいけないという鬼畜ぶり。ミラは爪楊枝で慎重にスジを取りながら小さく溜め息をついた。
「まだか?全然足りん」
「そうは言ってもね…大変なの見て分からない?」
「爪が黄ばんでやがる…」
「そこ?!…もうっ!爪ブラシあるんだからいいじゃない!」
「あっても嫌なものは嫌だ。ミラだって虫の処理は俺にやらせるだろうが」
「みかんと虫って釣り合うの?…ほら、一つ出来たわよ」
「ん。美味い」
「もっと味わって食べなさいよ…」
そう言いながらもミラは次の一切れのスジを取っている。
一見、小さなコタツに二人で向かい合いながら入り、せっせとリヴァイのためにみかんのスジを取るミラを見れば仲睦まじい恋人同士に見える。中学高校大学果ては就職先まで同じで同じ部屋に住んでいる時点で恋人を通り越して夫婦と言ってもおかしくはない。しかし、この二人実は付き合っていないのだ。周りがなんと言っても二人は声を揃えて言うのだ。「こいつを性的な目で見たことはない」と。
実際学生時代に二人にはそれぞれ恋人が居た時期もあった。しかし、なんか違うと言って長続きしない。居心地が悪いとかしっくり来ないとか。リヴァイに至っては
「ミラなら目線で気付くのになんでお前は気付けないんだ」
と言って大きな大きな平手をくらい別れることは少なくない。
そんなリヴァイに何でそういうこと言うかなー。とか言いつつも「やっぱりなんか違う」と言ってミラも別れを繰り返して来た。
そんな二人がどうしようかと悩んだ結果が『なら無理に恋人をつくらないで二人で暮らすか』ということだった。
周りからは「それは付き合ってるって言うの!」と言われるが、キスもセックスもないのだから恋人同士ではない。これは同棲じゃない、同居だと二人で言い張るのだ。
「そういえばさー」
「ああ?」
「ハンジがなんか可愛い子紹介してって言ってたよ」
「あいつは性別すら捨てたか」
「可愛い男も気になるみたい」
「……適当に見繕うか」
「いい子紹介してくれたらちゃんと始末書仕上げるって」
「おかしいだろうが…。始末書は普通に書きやがれ」
「まあまあ、あとコレ貰ったの。ペア宿泊券」
「……行けない距離じゃないな。今度有給使って行くか」
「うん。旅行なら買い物したいなぁ。鞄も古いし」
「あぁ、ついでに下着も買いに行くか。暫く買ってないだろ」
「ん。ピンクのとか欲しいー」
「ミラには白が似合うから白にしろ」
「えー。ピンクがいいー!」
そう言ってむくれるミラにリヴァイは「んなこと言ってないで早くみかん剥け」と言ってミラを追いたてた。
はいはいとスジ取りを再開するミラ。
ここに第三者がいたら思うだろう。お前ら早く付き合っちまえ、と。
リハビリその2!たまにはこんな兵長もアリですよね。季節感なんてどうでもいいんです←