誰だろう、彼が潔癖性なんて言ったのは。
「おい、ミラ聞いてるのか?」
誰だろう、彼はとても気難しいなんて言ったのは。
「おい、ミラっ!」
目の前でムッとしながらもグイグイフォークを差し出してくる男にミラは小さく溜め息をついた。
差し出されたフォークに刺さるはこのご時世とても貴重とされる肉が食べやすい大きさに切られ、ミラの口元へと運ばれている。
しかもその貴重な肉を差し出しているのはあの顔面凶器、冷徹無慈悲なあの人類最強のリヴァイなのだからミラも素直に口を開けずにいた。
幾ら恋人でもこんな甘ったるい雰囲気になったことがあっただろうか。答えは否。
手を繋ぐのもキスをするのも人がいない時だけ。こんな皆の目がある食堂でこんな行動に出るなんて誰が予想出来ようか。
「えっと……どうしたの?」
「あ?」
「だって…お肉貴重なのに……」
「いいから食え。食って肉を付けろ。ミラの胸は充分だが尻や腿に肉が足りてねえ。バックで楽しめねえだろうが」
蔑まれているのか心配されているのか本気で分からなくなった。
「いや、これ以上肉つけたら立体起動に支障が出かねないし…」
「なら事務に移れ」
即答だった。
けれどそれでもミラには理解出来ない事があった。
この差し出されたフォークはさっきまでリヴァイが使っていた物であり、リヴァイの手元の皿を見る限りまだそのフォークは使うのだろう。ならば、潔癖性のリヴァイからしたらそのフォークは使いたくないだろう。しかし、肉を差し出されそれをそのまま食べろと言われる始末。
「えっと……フォークが、……」
「ああ?フォーク?」
「えっと、今それを私が食べたら、ですね。フォークに、その…口を付けなきゃいけないというか……」
「……………何が言いたい」
「気に、ならないの?」
「………………………食え」
「いや、そんなあからさまに苦悩するくらいなら無理しなくても…」
「いいから食え」
「それに、みんな見てるし………」
「…………」
「だから、二人きりの時にしよ?ね?」
困ったように笑いながらミラがそう言えばリヴァイは盛大な舌打ちをし、その差し出したフォークを無理矢理ミラの口へとねじ込んだ。
肩をガシリと掴み、フォークを無理矢理ねじ込むリヴァイとされるがままなミラ。甘い雰囲気なんて微塵も感じられないその行為に周りは呆気に取られている。
されているミラもミラで無理矢理ねじ込まれたせいか歯にフォークがぶつかり、うっすらと涙を浮かべた。
ドヤ顔をしながらも何処か満足気なリヴァイと口にフォークを突っ込まれながら涙を浮かべるミラ。
まさかこの時リヴァイが恋人としての甘さを求めてこんな事をしたと誰が予想出来ようか。
遠く離れた席で事の顛末を見ていたハンジは思った。あぁ、今日も調査兵団は平和だと。