きっと叶う/微裏
「ん、んぅっ、…ぁ、も、むりっ…、」

「あ?まだまだイけんだ、ろっ」

「ぁ、ゃ、あぁっ、」

どくん、と彼が私の中で爆ぜた。暖かいそれは私の中に留まらず、腿を伝いシーツにポタリと落ちた。
あぁ
リヴァイは嫌そうな顔をするだろうな。後でシーツを変えなくちゃなんて思っていても、襲い来る眠気に勝てない。眠りに落ちる直前、リヴァイは優しくキスをしてくれた。だから私もリヴァイの頬を撫でて言葉を飲み込んだ。


「(どうして付き合ってもいないのに私を抱くの?)」


怖くて聞けない。今更、そんなこと。












リヴァイが私を初めて抱いたのはハッキリはしないけど、たぶん三年前くらいからだ。その日、私は凄く疲れていて凄くナーバスだった。部下が全滅したのだ。私の班のメンバーは私が直接引き抜き、いわゆる殿班としての役目を担うのが主だった役目だ。
壁外調査時に必ず必要になる殿班。以前の殿班の班長が戦死したため、今度は私に来たのだ。
ハッキリ言って、殿班なんて死亡確率はとんでもなく高いし、毎回本当に死に行くようなものだ。
そんな殿班の班長を任された私が選んだ部下達は今日全員死んだ。…私は、誰一人守れず、ただのうのうと生き残ってしまった。
こんな日は本当にお酒でも呑まないと自分を保てなかった。ただただ、空きっ腹にお酒を入れていく。元々お酒に弱いのに、こんな無茶な飲み方はいけないと分かりつつも私は止められなかった。…兎に角忘れたかった。仲間の死に際を。半身だけ喰われた子もいた。頭からばくりと喰われた子もいた。
考えるだけで吐き気がする。確かに死を覚悟して私達は心臓を捧げた。巨人を倒すべく調査兵団に入った。…けど、仲間の死を簡単に受け入れることは出来ない。私は、班長失格だ。
もう一杯呑もうと手を伸ばすと眉間に皺を寄せたリヴァイがそこにいた。リヴァイは私の手をとるとずんずんと歩いてく。

「なにするのよっ!」

「ヤケになるのは止めろ。」

「なによっ!知らないくせに!」

「あぁ、知るか。…死んだのはミラの班員だけじゃねぇぞ。」

「…っ、」

その言葉に思わず息を飲んだ。そうだ。私は自分ばかり…、


「俺の気も知らないで…、んな躾のなってない猫にはいっそもう一度躾直すか。」

「え?…っ、きゃあっ!」

何なのと問う間も無く、私はベッドに押し倒され、そのまま唇を奪われた。
まるで、食べれそう。そう言ったら、リヴァイはただ一言「悪く無いな」と言っていた。
そこからの記憶は曖昧だ。お酒も入っていたからだろう。気付けばリヴァイと一緒に朝起きて、当然私とリヴァイはまっ裸。
リヴァイは起きても「今日も仕事だろ。」しか言わず、私はなんで私を抱いたのか聞けず、そのままずるずると今の関係になってしまったのだ。






どうしてリヴァイは私を抱いたの?…一応私あん時処女だったんだけどなぁ。
隣りで寝てるリヴァイをじぃっと見ながら思った。
潔癖性の癖に一緒のベッドで寝たり、腕枕してくれたり、果てにはリヴァイのシャツを着ることも許可されている。…これじゃあ期待しちゃうよ。けど、リヴァイはきっと私を女友達か最悪セフレくらいにしか思ってないかも知れない。…うん、リヴァイはありえる。最初聞いたことあるもん。「女なんてめんどくさい」って。つまり、特定の相手なんていらないって事で…あ、ダメ、泣きそう。
私がリヴァイを嫌いだったら良かったのに。
私がリヴァイに処女を奪われたことを恨めれば良かったのに。なんでか私はこの人が好きだから、恨むことも嫌うことも出来ないばかりか、願わくばリヴァイに私を想って欲しいと思ってしまうのだ。
抱かれるたびに願ってしまう。どうか私を見て欲しいと。私を好きになって欲しいと。


「きっと、ずっと、叶わないんだよね。」

ならばせめて彼に嫌われたくはない。彼を死なせたくない。だからこそ、私はまだ殿班の班長を務めているのだ。
この人の隣りで戦えなくても、この人の後ろを守れたらいい。
ぽろりと涙が零れた。まだ、まだリヴァイは寝ている。けど、早く泣き止まなくちゃ。気配に凄く敏感だもん。

「ずっとずっと大好きなんだから。私より先に死なないでよね。」

そう言ってそっと、触れるだけのキスをした。唇を離したらそっと部屋に戻ろう。涙が止まらないから。
が、そう思っていたのも束の間。いきなりガシッと頭を掴まれ、舌が侵入してきた。


え、ちょ、これ…っ!

「ん、や、…っ!…ぷぁっ!なにすんのよ!リヴァイ!」

「あ?」

ジタバタと暴れてようやく解放されるとなんともまぁ、意地悪な表情をしたリヴァイがそこにいた。

「ちょっと、死ぬかと思ったじゃない。」

「んなんで死にゃしねぇよ。」

ハッ。と鼻で笑うリヴァイはするりと私の頬に手をやり、ニヤリと笑った。

「…?」

「あんな熱烈な告白されたんだ当然だよなぁ。」

「……はい?」

「ずっと黙ってた甲斐があったな。こんな可愛らしい言葉を聞けるなんてなぁ?ミラよ。」

「…なに、言っちゃってるのかな?リヴァイさん?」

「『ずっとずっと大好き』かぁ。…お前からそんな言葉がねぇ?」

「いやぁぁぁぁ!ど、どうして?!ま、まさかあんた最初から?!」

さぁぁと青くなった。それと比例してリヴァイの表情はなんともまぁ、悪魔のような、意地の悪い笑顔だった。

「あぁ。最初から最後まで…なぁ?」

「………〜〜〜っ!!」


死にたい!凄く!今すぐに!

「やだ、性格わるい…」

「ハッ。その性格悪い男が好きで好きでたまんないんだよなぁ?ミラよ。」

「…っ、そうよ!悪い?!」

キッとリヴァイを睨めば、そこには今まで見たことないくらいに優しい顔をしたリヴァイがいて、

「やっと、手に入った。」

「リヴァイ…?」

「ったく、三年も焦らしやがって。…覚悟しろよ?」

そう言ってふわりと唇を重ねられて、ゆっくりとリヴァイは私をベッドに押し倒した。

「リヴァイ…まさか、あんた…」

「生憎俺は好きでも無い女を抱ける程器用じゃねぇんだよ。」

「……うそ、そんな…」

「あぁ?…ったく、まぁ、お前が手に入ったなら良しとするか。」

「やだ。」

「あぁ?!」

「ちゃんと、言葉にしてくれなきゃ、いや。」

そう言ってジイッと見つめれば、リヴァイは深い溜め息をついた。

「…一度だけだ。」

「…ん。リヴァイの言葉で聞きたい。」

「……好きだ。ずっと、前からミラお前だけだ。」

「リヴァイっ、!」

ブワッと涙が溢れた。
思わずリヴァイの首に腕を回せば彼はそれを受け入れて抱きしめてくれた。

「私もっ、好き、大好きっ!」

「…あぁ。」

そう言って、甘い甘いキスをした。
生まれて初めてこんなキスをした。するりと、リヴァイの手が頬から胸へと伸びてきた。


「…ん、…遅刻しちゃうよ?」

「…たまにはいいだろ。」

「ふふ、ハンジにからかわれちゃうね。」

「…放っておけ。」


そう言ってリヴァイはバサリとシーツを剥ぎ取り、私に馬乗りになった。

チラリと横目に見ればもう朝日は出てる。
今日は仲良く遅刻して、仲良くエルヴィンに怒られようね。
そう言ってリヴァイは「あぁ。そうしよう。」そう言って二人で笑った。

きっと、次に目を覚ましたら優しい世界が私達を待っているんだろう。




















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