思い切ればそれは簡単なこと
「へいちょ、…お願いです。一緒に寝て下さい」


へにゃりと今にも泣きそうな顔でこちらを見上げ、僅かに震える手を振り払える男がいるだろうか。

少し年の離れた彼女と付き合うようになったのは最近の事だ。
年下の素直で甘えたな可愛らしい恋人。「何かあったら迷わず俺を先に頼れ」その言葉を鵜呑みにし、本当になんでも頼ってくれる。
そんな可愛らしい恋人が今にも泣きそうな顔でこちらを見上げてふるふると震えている。


「……っ、どうしたんだ、突然…」

「ハンジさんが……怖い、話を…っ、」

「ったく、クソメガネが…」

「お、おまんじゅうが、夜中に歩いて人を殺すって…っ!」

「…………」


その話のどこに恐怖を感じればいいのか。
しかし目の前のミラはカタカタと震え今にも涙を流しそうだ。よほど怖いのだろう。



「兵長っ!お願いです…っ!」


ふるふる震える可愛らしい恋人を無下にできる男がいるだろうか。


「仕方ねえな、ほら入れ」

「あ、ありがとうございますっ!」

居るわけがなかった。
リヴァイがそう言えばぱあっと表情を明るくし、笑うミラにリヴァイも自然と笑みを浮かべる。
話の程度がどうであれ、自分を頼って来た恋人が可愛くないわけがない。
ミラが部屋に入り、扉を閉めると真っ直ぐにベッドへと向かうミラに、リヴァイは灯りを消しその小さな背中を追いかける。
先にベッドに入り、腕を出せば少し照れたように笑いながらもリヴァイの腕に頭を預け、ベッドへと入る。
ミラがベッドに入ったのを確認すればリヴァイはその小さな体をゆっくりと抱き締めた。


「ふふ、あったかい」

「ああ、温いな。………?」


ぴったりとミラがくっついて来たことにより感じる違和感。
ふにゃり、と。ミラの頭を撫でていたリヴァイの手がピタリと止まる。


「オイ、ミラお前まさか……」

「……?」


いや、ないだろう。まさか恋人とは言え無防備に成人女性が男の部屋に来ることはない。
まさか下着を付けずに男と寝るなんてあり得ないだろう。


「まさか、ミラ……下着を…」

「寝る前なので付けていませんよ?」


アッサリとそう言うミラにリヴァイは目眩がした。
そんな事があっていいのか。
幾ら何でも無防備にも程が有る。それは腹を空かせた狼の前に丸々と肥え太った兎を「はい、どうぞ」と差し出すのと変わらないというのに。

付き合い出してまだ日も浅いためミラに今のところキスすらしていない。しかも年の割に幼いミラに合わせるためにリヴァイは並々ならぬ我慢をしていた。それはもう、周りが心配するくらいに。

しかし目の前の恋人はケロリとそう言い放ち、しかも甘えるようにすりすりと頬を摺り寄せてくるではないか。


「オイ、ミラ…」

「ふふ、兵長にぎゅってされて眠ったらきっといい夢見れちゃいますね」

「(あんまり可愛いこと言うんじゃねえ!)」

「兵長、大好きです」



とろん、とこちらを見てそう言うミラにリヴァイはぶっちん!と何かが頭の中で切れた音がした。
腕枕していた腕を抜き、なるべく優しくベッドへと押し倒す。ミラの手首を持っていた手をゆっくりと外し、指を絡めるもミラは首を傾げている。


「へ…いちょ?」

「いいか、全てはミラが悪い。人がせっかく我慢してやれば煽るだけ煽りやがって。それでも我慢していればあの仕打ちときたもんだ。お陰で忍耐力なんて似合わないもん身に付けるハメになっただろうが」

「え…え?」


何を言われているのかよくわかっていないのをいいことにリヴァイは一気にまくし立て、またその無防備な表情にリヴァイは舌打ちをした。

こんな子供に。それは他人が言ったのか自分が言ったのか。しかし「こんな子供に」翻弄され、手を出せないでいる。まだ自分にそんな可愛らしい感情があったのかとリヴァイはふと笑みを浮かべた。


「いいか、これから俺がすることは悪くない。悪い悪くないを言うならミラ、てめえが悪いんだ」

「……え、わ、…たし?」

「とにかく、今は黙って食われてろ」



そう言ってゆっくりと唇を重ねるもミラは今だに状況が分からないのか目を白黒させるだけ。
さて、今まで焦らされた分だけどう可愛がってやろうかとリヴァイは思いながらその柔らかな肌にそっと指を這わせた。










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