料理は愛情
この食糧難な今、食材はとても貴重だ。
肉なんて一月に一回食べれるかどうかという今、野菜の皮も貴重な食材として調理される。
だからこそ、調理する人間はとても気を使う。無駄を極力省き、かつ力になるメニューを考えなくてはならない。
このリヴァイ班でも週に一回から二回。必ず調理当番は回ってくる。それは避けられない運命であり、とても重大な使命でもある。育ち盛りのエレンにガタイのいいエルドとグンタとオルオ。ペトラも小柄ながら食べる時はしっかり食べる。

そんな彼らは専ら食べる専門であり、作る専門ではない。
だからこそ、毎回の食事は彼らの楽しみであり、毎回まわってくる食事当番は面倒極まりないものだった。


そんな彼らは今日もヘトヘトになるまで訓練し、食堂までやって来た。



「…オイ、いくらなんでもコレはないだろ、オルオ」

「何で俺なんだよ!違えよ。誰だ、今日の食事当番は?」

「い、いくらなんでもこんなデカイ芋が入ったスープなんて…」


食堂に入ったメンバーは皆食卓を見て唖然とした。
芋を半分に切っただけのスープに、千切りとは程遠いサラダ。唯一無事なのはパンだけだろう。


「さすがの俺でも芋は四等分か更に大きさ見て小さく切るぜ?」

「いやあ、ここまで豪快だと料理って呼べないよな」

「誰だ?食材無駄にした奴は。ただでさえ食糧難なんだからもう少しマトモ料理しやがれってんだ。エレンか?」

「ち、違いますよ!オルオさん!俺は明日当番です!」

「…え?じゃあ、誰が…。というか料理が泣いてるぜ。というか芋が泣いてるぜ」


オルオがそう言って席に着くと、周りも席に着きはじめまじまじとスープとサラダを見つめた。
スープの色も心なしか少し茶色い。



「こりゃ、人間様の食い物じゃねえぞ」



そう言ってオルオはチラリと上座に座ったリヴァイを見た。
この中で一番文句を言うと思っていた人物は黙って席に着き音を立てずにスープを啜り、
パンを千切って黙々と食べていた。

リヴァイが何も言わないのだ。これ以上文句を言っても仕方ない。しかし、これは…


「さすがにこれは犬の餌レベルだろ…。ペトラ後で料理ってのを教えてやれよ?」


誰が言ったか分からないその一言にリヴァイ以外のメンバーは笑っていた。そう、そこまでは。


「ごめんなさいねぇ、犬の餌レベルで」


ガタン!と音を立てて立ち上がった人物を見てオルオ達は凍り付いた。
人類最強の右腕であり、リヴァイが愛してやまない恋人であるミラが貼り付けたような笑顔を浮かべていたのだ。心なしかテーブルに置かれた手が震えているのはきっと気のせいではない。


「え…ミラ、さん?」

「無理しなくていいのよ?犬の餌なんだから」

「い、いや、そういうつもりじゃ…っ!」

「ふうん?ほらほら、水とパンは無事だから」


ダンッ!とテーブルに置かれたのは水差しではなく桶。
水をテーブルに置くとミラは一瞬悲しそうな顔をし、そのままつかつかと部屋を出た。


「………っはー!これ作ったのミラさんだったのか…」

「…めっちゃ怒ってなかった?」

「し、知らねえよ!というか犬の餌って言ったの誰だよ!」

「いやいや、それよりも……!」

「オイ、おまえら…」



静かにリヴァイが口を開けばピタリと止む声。しかし、その口から出たのはお叱りの声ではなかった。


「それ食ったら片付けしとけよ」


たったそれだけ言ってリヴァイは静かに立ち上がり、その場を後にした。













「……犬の餌、か…」


幼い頃から筋金入りの不器用だった。それは自分で認めていたし、出来る限りの努力もしてきた。
しかし、いざ他人からの評価を聞いてしまえばへこんでしまうもの。
はぁ、と溜め息をついた。するとじゃり、と土を踏みしめる音がして下を見れば呆れたような、面倒そうな顔をしたリヴァイがそこにいた。


「拗ねた時の癖、変わらねえな」

「違うもん。拗ねてないんですから」

「拗ねた時木に登る癖はどうにかしろ。探す手間も考えろ」

「探してなんて、言ってない」


そう言ってふい、と顔を背ければリヴァイは溜め息をついた。


「……別に食えない味じゃなかった」

「けど、芋半分ですよ?」

「味付けさえ酷くなけりゃ食える。俺はそうだ」

「……どうせ、犬の餌だもん」



ふい、と顔を背け木の上で器用に膝を抱えて座り込む。
そんなミラの様子を見てリヴァイは珍しいと思った。
いつもなら迎えに来れば大抵は機嫌を直すのに、今日はかなり拗ねているらしい。

仕方ない、とリヴァイは腰に下げた立体起動装置からアンカーを出し、軽やかにミラの隣に立てばギョッとした顔でリヴァイを見ていた。


「え、ちょ、立体起動装置使って?!」

「使えるのは使う。それだけだろうが」

「だからって、許可無しに使うんですか?!」

「……何とかなるだろ」


じとりとリヴァイを見るミラ。しかし、そんなリヴァイの視線の先はミラではなく、ミラの指先だった。


「……料理して切ったのか」

「………」

「…全部包丁で切ったのか」

「…、巨人の肉を削ぐのは出来るのに…」

「………」


はぁ、とミラは溜め息をついた。恐らくあれ以上小さく切ると自分の指を切りそうになるのだろう。芋を半分にしただけなのにミラの手は切り傷だらけだった。
リヴァイはそんなミラの手を取ると優しく手の甲を撫でた。


「……、やっぱ、私女らしくないですよね」

「あ?」

「包丁使うよりブレード握る方が得意だし、針を使うよりナイフ使うのが得意なんですもん。やっぱ、こんな女なんて…」

「相応しくない。…何て言ったらいくらミラでも怒るぞ」


明らかに落ち込んだミラにリヴァイはそれだけは許さないとピシャリと言い放った。
言われたミラは今にも泣きそうな顔をしながら首を傾げた。


「俺の女は手先は不器用だが、人一倍繊細で傷付きやすい女だ。料理が苦手でも芋丸ごと入ってようとそいつが頑張って作ったなら俺は食う」

「………南瓜丸ごと入ってても?」

「せめて半分にしろ」


リヴァイがそう言えばミラはふわりと笑った。


「ほんと、いい趣味してますね」

「ったく、言ってろ」


そう言ってとす、とリヴァイに抱きつけば嫌な顔せずリヴァイは優しくミラの頭を撫でてやる。

やれやれ、とリヴァイは溜め息をついた。
さて、次は相当揉めているだろう食堂をどうしようか。そう思いリヴァイは深い溜め息をついた。









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