ハンジ分隊長の受難
「えへへー。ハンジいい気持ちだねぇ」

「そ、そうだね。…ちょっとミラ落ち着こうか。ね?」

「わたしはいつだって落ち着いてるよぉー?」

「うん、呂律回ってないから」

「まわってまふぅ!」

「いや、だから落ち着こう!」

「やーなーのー!」



首を仕切りに振り嫌々と駄々を捏ねるミラ。普段のふわふわしたミラからは想像出来ない。
何でこうなったのか。いや、何でここまで悪化してしまったのか。ミラの手元で揺れるその液体はもう残り僅か。

そもそもミラが何でここにいるのか。それはただのリヴァイの会議が終わるまでの時間潰しであり、「久しぶりにハンジとゆっくりお茶しながらお話したくて」と言ったミラに渋々ながらも会議が終わるまでならと言ったリヴァイによってハンジの部屋へと来る事になったのだ。

最初は普通に話しをして、お茶を楽しんでいた。しかし、会議が長引きハンジもつまらなく感じていた所、偶然視界の端に捉えた酒瓶を見て閃いたのだ。
そうだ、少しミラを酔わせてリヴァイの弱みを聞いてみよう、と。

ミラとリヴァイが付き合っている事は調査兵団員なら殆どが知っていると言っても過言でないくらいに有名な話だ。
普段ふわふわした雰囲気のミラではあるが、その実リヴァイの補佐官を務めるほどの実力者であり、討伐数も討伐補佐数もかなりのもの。そんなミラは公私共にリヴァイを支える姿は理想の母親とか理想の彼女と呼ばれていたりする。けれどこの調査兵団において間違ってもミラに手を出す愚か者は一人としていない。それは常にリヴァイが何をするにしても彼女を傍に置き、過剰なまでの愛情表現をしていたら誰だって手を出そうなんて思わないだろう。
本当はエルヴィンとの会議だってミラを連れて行きたいくらいなのだ。皆の前で手を繋ぐ、膝に乗せるセクハラをする首筋に吸い付くのは当たり前。それ以上をしようとしたら可愛いらしく「ここから先はお部屋で…ね?」なんて言うのだからリヴァイにはたまったもんじゃない。しかし、思い出して欲しい。それは全て人前で平気でやるのだから周りもたまったもんじゃない。

そんな見るからにアツアツの二人だが、ハンジが聞きたいのはその先だ。部屋での、二人きりのリヴァイはどうなのか。デレデレの人類最強はどうなのか。気になったらとことん調べ尽くすがモットーなハンジはつい軽い気持ちでミラに少し強い酒を進めたのだ。
これくらいならばほろ酔い気分でミラの口の滑りもいいだろうと。しかしそれは甘かった。
飲めども飲めどもミラの顔色は変わらない。あれ?おかしいな。もしかして薄いかな?なんて飲んでみたらめっちゃ濃いではないか!
急いでミラを見ても後の祭り。
顔色は変わっていなくても、既に呂律は回らずぼんやりと宙を見つめては「えへへー、ハンジー」と意味のない言葉を喋る始末。


「(ま、マズイ…。こんなにベロンベロンじゃリヴァイに殺されるっ!)」


ほんの少し酔うくらいならまだ蹴り一つですんだかも知れないのにここまでとなると命の保証はない。
ダラダラと嫌な汗が流れる。
しかしそんなハンジなどお構いなくミラはへらりと笑っていた。


「ハンジー、あのねぇ」

「う、うん」

「にゃふふー」


そう言ってグイッとコップの中身を空けるミラにハンジは思わずガクリとなった。
酔っ払いとの会話は難しい。


「ハンジ、おかわありぃ!」

「や、やめよう、ミラ。もうこんなに酔ってるし…」

「やー!わたしおさけつよいんらよ!」

「ベロンベロンだから!ほら!ミラ!」


嫌々と駄々を捏ね、コップを手放さないミラに思わず口調を荒げて言えばミラはビクリと肩を震わせた。


「あ、ごめんキツく言い過ぎた…。けど、もうこんなになってたらリヴァイが……」

「はんじがおこったぁぁぁ」


カランとコップを手放したはいいものの、ボロボロと泣き出してしまったミラに更にハンジは慌てた。


「うわああ!ごめんよミラ!私は怒ってないから!ね?」

「ぜったいおこってるもん!ふぇぇぇぇ」



面倒臭せえ酔っ払いだな!そう思ったがガヤガヤと騒がしくなった廊下にハンジは真っ青になった。マズイ、こんな場面をリヴァイが見たら…


「ミラ!私は怒ってないから!落ち着こう!ね?」

「ふぇぇぇぇ」

「わ、私のためにも泣き止んで!こんなところリヴァイに見られたら…」

「見られたら、どうなるんだろうなぁ、クソメガネ」

「…………リヴァイ?おかえりー。早かったんだね」



ギギギと後ろを振り向けば青筋を立て、今にも人を殺しそうな勢いの人類最強が腕を組んでいました。


「俺の可愛いミラが待ってんだ。早く終わらせるのが当たり前だろうが」

「ですよねー」

「んで、どうしてこうなってる。弁解くらいは聞いてやろう」


そう言ってリヴァイはミラに近づきよしよしと頭を撫でている。するとリヴァイに気付いたミラがとたんに笑顔になった。


「りーばーいさーん!だっこー!」

「……っ!」

「むぅ、だっこなのぉ!」


ん!と言って両手を広げるミラに思わずリヴァイは頭を撫でていた手を止め、口元を手で覆った。


「だっこ!だっこ!」

「(可愛すぎるだろうが!)」

「だっこしてほしいのお!」

「……クソメガネ」

「(ビクッ!)……なに、リヴァイ?」


恐る恐るリヴァイを伺えばくるりと振り向いたリヴァイは


「今日は不問だ、だが次はねえ」


そう言ってミラの膝裏に腕を回し、軽々とミラを抱き上げるとリヴァイはツカツカと早足で部屋を出る。
終始、ミラだけはきゃっきゃとはしゃいでいたが。



「……なんとか、たすかったぁぁ〜」


へたりとハンジはその場にへたり込むとミラの落としたコップを見つめて溜め息をついた。





初のお酒ネタです。微妙に不完全燃焼なので余裕があったら続編やりたいですね(^^)






back