最強と天然の始まり

*ジャン姉主馴れ初め話

「頭がちょっとアレだが腕だけはいい兵士がいるんだがどうだ?」



そう言われて入って来た女は本当の変わり者らしい。
元々は憲兵団にいたその女はあのヒッチもマルロも手に負えず、調査兵団へと入らされたらしい。
エルヴィンも人手不足からその女を引き取ったらしいがエルヴィンですらも頭を抱えていた。


「いい子なんだけどね。あれでは壁外ではやれないだろう…」


常々エルヴィンはそうボヤいては溜息ばかり。
そんなエルヴィンを見兼ねて言ったのだ。


「なら俺が面倒を見よう」


と。最初はエルヴィンは断っていたがやはり自分では手に負えないと彼女、ミラ・キルシュタインの世話を一任しリヴァイの班へと移動になったのだ。



「初めまして、リヴァイ兵長。私がミラ・キルシュタインです。よろしくお願いします」


そう言ってぺこりと頭を下げて笑うミラにリヴァイは一体彼女の何処が問題なのかと思った。普通に上官に対して敬語も使えるし挨拶だって出来る。見てくれだって悪くない。綺麗というよりは可愛らしい。思わず守ってあげたくなるような女性だ。


「じゃあ、後は頼んだよリヴァイ」


そう言うエルヴィンの声すらリヴァイの耳には届かない。可愛らしい笑顔に小柄な体躯。ふわりと揺れる金髪に思わず手を伸ばしてしまう。


「……?兵長?」

「綺麗な、髪だな」


思わずそう言えばミラは顔を赤くしながらも可愛らしく笑った。


「ありがとう、ございます」


ピシャリと何かが落ちる音が聞こえた。


「兵長はとても優しいお方なのですね。私、安心しました」

「……、」

「今後ともご指導よろしくお願いします」


そう言って笑うミラに恋に落ちたのは一瞬。
この時エルヴィンは思った。リヴァイに任せたのは失敗だったかも知れないと。





「わぁ、兵長見て下さい。あの小鳥さん可愛いですよー」

「そうか、確かに可愛いな」

「あ、あそこに巣がありますよっ!」

「まだ小さいからこれから巣作りなんだろうな」

「ふふ、お父さんとお母さん仲良しだといいですね」


にっこりと笑うミラは可愛い。それは認めよう。
しかし、とエルヴィンは思った。あの日からリヴァイは大きく変わった。
常に傍にミラを連れて歩き、手を繋ぐのは当たり前。肩を抱き寄せるのは当然。パン屑が付いているぞと言ってパン屑なんてついていない頬にキスをするのはもう見慣れた。
潔癖性はどこへやら。ミラの手からパンを食べるのだって日常だ。
もちろん最初はミラだって疑った。これは過度な行為ではないかと。しかし、幸か不幸かミラは素直な性格だった。素直で純粋。すんなりと人の言葉を信じてしまう。
だからこそリヴァイは周りを牽制し、「ミラに間違った知識埋め込んだ奴は巨人より先に削いでやるから安心しろ」と全く安心出来ない言葉を発したのだ。
もちろん逆らう者などいるわけもなく、リヴァイはゆっくりとミラに教え込む事が出来た。如何にリヴァイという人間が強く優しく頼りになる存在なのかを。
かなり天然なミラにもわかりやすいように好意を露わにし、ミラただ一人を大事にする。
そんなリヴァイの姿を見てもちろん他の女性兵士が黙っている訳がないのになぜ何もないのか。それはリヴァイの牽制と彼女の実力だろう。
ミラは初めての壁外調査において殆どの人間がミラは死んでしまうのではないかと思っていた。あの天然と少し抜けた性格では無理だと。しかし、壁外に出てそれは大きく変わる事になる。


『頭はちょっとアレだが腕だけはいい』ナイルがそう言っていたのは間違いでは無かった。
大の男でも怯んでしまう巨人を倒すことは女性には厳しいというのに、彼女はうなじを削ぐだけでは飽き足らず、うなじごと首を切り落としまだ微かに意識のある巨人の目を踏み付けたのだ。
これには助けに入ろうとした先輩兵士も呆気に取られる。しかもミラは笑顔で言ったそうだ。


「巨人の首って軽くて蹴りやすいからいいですねぇ」


可愛らしい笑顔で言うことではない。
助けに入ろうとした先輩兵士は思った。この子、下手したら兵長よりタチが悪いと。


その後、バッサバッサと巨人を倒したミラの武勇伝は瞬く間に広がり、彼女とリヴァイの仲を邪魔しようなんて世間知らずは表れることは無かった。
ある意味では兵長でなければ彼女を掌握出来ないと言われる始末。

だからこそ二人を阻むものはないし、阻むつもりも周りにはない。
しかし、これはいかんだろう。
今は会議中であって、プライベートな時間ではない筈だ。
しかし不思議なことに会議中であるにも関わらず何故かミラはリヴァイの膝に座り、黒板に二人して背を向けて外を見ているではないか。


「だから次回の壁外は陣形を少し変えて……」

「わぁぁ!今蝶々が飛んでましたよ!蝶々!」

「ほう、悪くないな」

「えーと、一応次回の壁外は拠点に補給物資を運ぶのが…」

「蝶々かぁ。見るだけならいいんですけどねぇ」

「大丈夫だ、ミラ。お前は見ても抱いていても可愛い」

「……リヴァイさん…」

「…………会議、中断しましょうか」


途中までは頑張って会議を進行していた若き分隊長の彼だったが、あえなく二人に負けてしまった。
なんで団長とハンジが来ないのか疑問だったが納得した。これでは進められる会議も進まない。ならば一時中断して二人を外してから会議をした方が早く終わる。
しかし、二人には中断の提案すらも耳には入らない。周りの隊長、分隊長は慣れたもので退室するが自分までもそうしてよいものか。
きゃっきゃとリヴァイとの触れ合いを楽しむミラは確かに可愛い。しかし、自分が声をかければきっとリヴァイは睨み、ミラは少し残念そうな顔をしてしまうのだろう。

ある意味最強な二人を前に年若い分隊長はただただ溜め息をつくしか手は残されていなかった。






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