『悪い、風邪ひいた。移るから家には来るな』
そんな簡素なメールに思わずあんぐりと口を開けてしまった。
確かに調子は悪そうだったけど風邪だったとは…。
社会人な彼と学生の私。出会いはまあ、アレだったし付き合うキッカケもかなり強引だったけど、彼なりに大事にしてくれるのは分かっていたし、なんだかんだで私の嫌がる事はしない。何時だって私の事を考えてくれる、優しい恋人だ。
社会人と学生が付き合うのはやはり難しくて、しかも彼が忙しい身だから気軽にデートなんて出来ない。夜だって彼が学生である私を気遣って夜のデートなんてしない。
「今の大学生ってのは課題が多いんだろう?なら平日は課題をこなせ。その代わり休日は覚悟しとけ」
そう言われては私も何も言えないじゃないか。
確かに会いたい夜だってあるし、寂しいって思うのは当たり前だ。けれどそんな夜は電話をして寂しさを紛らわしているが、紛らわすどころか彼に会いたい。彼と触れ合いたい。そんな思いを煽る事にしかならない。
だからこそ休日のデートが楽しみで、しかも金曜の夜から日曜日まで居られるのだ。二泊三日の彼の家でのお泊まりは私の楽しみだ。
そりゃ、まあ、お泊まりだからそれなりにやる事はやるし、やりすぎかなって事はあるけれど、けど彼との触れ合いも愛される事も嫌じゃない。恥ずかしくはあっても嫌じゃない。一緒のベッドで眠っておはようからおやすみまで一緒なんて何よりの贅沢だと言ったら彼は笑ってもう少し欲張れなんて言っていたが、これ以上何を欲張ればいいのか。
愛しい人の腕の中が、誰かのぬくもりがこんなに欲しくなるなんて私は知らなかった。
チラリと隣に置いたお泊まりセットを見てからもう一度携帯を見た。内容は、変わらない。
彼が私に移したくないって思いは分かる。けれど、彼は今一人で苦しんでいるのだろう。誰かに頼るなんてしない人だから。
「たまには、聞き分けなくていいよね…」
そう言ってお泊まりセットのカバンを開けてテーブルに置いてあるノートパソコンを入れると少し重くなったカバンを持ってミラは立ち上がった。
「今日くらいは私が甘えさせるんだから!」
何時もこれでもかと言うくらい甘えさせてくれる彼のためにも今度は自分がやるのだと意気込んで歩き出した。
ピピッと機会音が鳴り、ゆっくりとした動きで脇の下から体温計を取り出せばそれは今朝より遥かに高くなっている。
「ッチ。38.7度か…」
そう言って体温計をサイドテーブルに置くとドサリとベッドに横たわる。
確かに最近体調は悪かった。喉の痛みに頭痛身体の怠さ。風邪かとは思っていたが、仕事が忙しくまあ放って置いてもいいだろうと栄養剤で誤魔化していたのが間違いだった。
見事に昨日から熱を出してしまったのだ。しかし、熱があるからと言って仕事を休むリヴァイではない。体調が悪くても仕事は容赦無く来る。しかも平日休んでしまえば休日出勤の可能性が出てくる。それだけは避けたかったのだ。
年下の可愛らしい恋人のためにもリヴァイはなるだけ休日に仕事を持ち込まないようにしていたのだ。リヴァイの毎週の楽しみでもある彼女のお泊まり。可愛らしく来るのだ。小さなカバン一つで照れたように「お邪魔します」と言って上がる彼女の可愛らしさはもう兵器だ。だからついつい玄関で押し倒したくなる衝動を抑え込むのにリヴァイは毎回苦労させられてしまう。
しかし、とリヴァイはチラリと枕元に置かれた携帯を見た。
先ほどミラにメールをしてから微動だにしない携帯に思わずリヴァイは溜息をついた。
やはりガッカリしているのだろう。いつも楽しみにしていると言っていたし、昨夜の電話でも楽しみだと言っていたのだ。しかし、彼女に風邪を移すわけにもいかない。可愛らしい恋人に誰が好き好んで風邪を移すものか。
だから、仕方ないのだ。聞き分けのいい彼女の事だ。きっと分かってくれるだろうとリヴァイは携帯をサイドテーブルに置くと布団を被り直した。
その時、ガチャリと音がしその先を見ればなんと先ほどまで考えていた彼女がいた。
「リヴァイさん、大丈夫ですか?」
「ミラ…メールは…」
「見ましたよ?」
「だったらなんで…」
「看病しにきました!」
そう言ってニッコリと笑うミラに思わずリヴァイは頭を抑えた。
「移るから来るなと言っただろうが」
「大丈夫ですよ。それに、看病くらいさせて下さいよ」
そう言ってドサリとサイドテーブルに買い物袋を置くミラ。チラリと袋を見れば中には風邪薬やら水やらプリンやヨーグルトまで入っているではないか。しかも栄養剤まで入っている。
「プリンは昨夜作ってたんですよ。ヨーグルトも手作りなんですけどリヴァイさんの口に合うかなあ?」
「オイ、気持ちだけでもいいからもう帰れ。本気で移るぞ」
「もう、大丈夫ですから!それに…」
「……?」
「リヴァイさんの風邪菌なら、…いいかなぁって……」
「……っ!」
恥じらいながらそう言う彼女に思わずリヴァイは眩暈がした。
なんでそんな可愛らしい事を言うのか。
「ったく、ミラ…」
「ね?ね?ちゃんと私も後でお薬飲むから今日くらいは看病させて下さいっ…!」
「…仕方ねえな」
「…っ、ありがとうございます」
そう言ってふにゃりと笑う彼女にリヴァイは溜息混じりに笑った。
なら、とミラは袋から栄養剤と風邪薬を取り出した。
「リヴァイさんの事だから風邪薬飲んでないでしょう?あ、それより何か食べました?」
「さっき軽く食ったから大丈夫だ。薬と栄養剤よこ…」
寄越せ。そう言って手を伸ばすがリヴァイはピタリと手を止めた。そして悪魔よろしくとばかりにニヤリと笑うとそれに気付いたミラは思わず顔を引きつらせた。
知っている。アレは絶対ろくでもない事を言う前の顔だと。
しかし、いくら熱があろうが身体が弱っていようがリヴァイには関係ない。そうだ。目の前の可愛らしいウサギは言ったではないか。その愚かにも可愛らしい口で『看病したい』と。
「……ミラ」
「は、はい…?」
名前を呼ばれ恐る恐るリヴァイを見れば意地の悪い笑み。
スッとリヴァイは手を伸ばし、薬とミネラルウォーターを取り出しそれらをミラに手渡すと病人とは思えない顔で言ったのだ。
「看病したいと、言ったな」
「はい…。えっと…?」
「なら、分かるなミラよ」
「?リヴァイさん…?」
水と薬を手に持たされミラはこてんと首を傾げた。どうやらこれだけでは伝わらないらしい。
リヴァイはそっとミラの髪を耳にかけ、優しく囁いた。
「なら、薬を口移しで飲ませるのも看病だよなぁ、ミラよ」
「はい?!」
「どうやら風邪のせいか関節が痛んでな…」
「くっ…!」
「まぁ、ミラがどうしても嫌なら無理にとは言わないが一人では飲めないだろうな。……月曜まで治らないだろうな」
「くぅっ…!」
じわりじわりとミラを追い込めば羞恥に耳まで赤くしたミラはペットボトルを握り締めたまま俯いていた。
だからこそリヴァイはその意地の悪い笑みを隠す事なく、ミラに向けたまま更に追い込む。折角逃げ道をあげたのにそれを蹴ったのは彼女であり、自らここまで来てしまったのもミラだ。
「まぁ、無理にとは言わんが…」
そう言って態とらしく咳込めばハッと顔を上げて顔を赤くしながらも心配そうにリヴァイを見る目。
ミラは手元の薬とリヴァイを交互に見るとグッと唇を噛みしめると意を決して薬と水の封を切った。
ミラは薬を口に含み、そっとベッドへと上がるとリヴァイの熱によりほんのり赤くなった頬に手を添えるとそのかさついた唇へと唇を重ねた。
「……っ、…ふ、ぁ…」
ゆっくりと舌を入れ、薬をリヴァイの口内へと入れる。
あぁ、錠剤にして良かったなんて頭の片隅で思いながら一度唇を離して水を口に含むとまた唇を重ねた。
先程寄りももっとしっかりと唇を重ねる。水が少しでもこぼれないようにとする。
「……っ、ふ、…ぇ…?…っ、ん!」
水を流し込みゴクリと飲み込むリヴァイを見てホッとするもそれを許すリヴァイではない。
ガシリとミラの頭を抑えるとリヴァイは噛み付くように深く唇を重ねた。
これには流石のミラも驚き、目を見開き思わずリヴァイの頬に添えていた手を離しリヴァイの腕にしがみつくがなんのその。
病人とは思えないその力でドサリとリヴァイはミラをベッドへと押し倒した。
「きゃっ、リヴァイ、さん?え?関節が痛いんじゃ…」
「さっきまではな」
「ま、まさか、騙し…!」
「さぁな」
「ひどい!恥ずかしかったのに!」
「これからもっと恥ずかしい事するんだから大丈夫だ」
「…え?」
そう言ってリヴァイを見上げればニヤリと笑うリヴァイ。ミラはその赤くなった顔を隠す事なくぽかんとリヴァイを見ればしれっとリヴァイはプチプチとミラの服に手をかけ、ボタンを外していく。
「ちょ、リヴァイさんっ!風邪ひいて…っ!」
「飯も食って薬も飲んだ。なら残るは汗かくだけだよなあ?ミラよ」
「……え?」
「安心しろ。今日はミラが上だ」
「全然安心しないです!」
「大丈夫だ。二回めはバックからしてやる」
「なんの心配ですか!というかリヴァイさん本当に風邪ひいてるんだから…ぁっ!」
何時の間にか服のボタンは全て外され、服の合間からはミラの下着に覆われた胸がリヴァイの前に晒されていた。
リヴァイは迷う事なくやんわりとミラの胸に手をやり首筋を舐めればニヤリと笑ってそっと囁く。
「"看病"、してくれるんだろう?ミラよ」
「っ!…リヴァイさんの意地悪っ!」
「大人は狡いんだよ。…今は大人しく鳴かされてろ」
「ふ、ぁ…もう、仕方ないですね…」
そう言ってミラはゆっくりとリヴァイの首に腕を回した。
その時やはりリヴァイの身体は熱くて少し心配にもなったが、愛される喜びを知ったこの身体はそれを拒むことは出来ずそっと目を瞑った。
次の日、見事に回復したリヴァイと完璧に移されたミラがリヴァイの"看病"に鳴かされたのはいうまでもないだろう。