耳がはえました
「や、やった…成功だ。成功したんだよ!ミラ!」



そう言われてもミラは全然嬉しくも感動もしなかった。あるのは虚しさと自分の愚かさだけ。
なぜこうなったのか。
嫌に目がギラついているハンジに何で気付かなかったのだろう。いつもよりやる気に満ち溢れたハンジが言ったのだ。



「ねえ、ミラ!私今新型の対巨人兵器を開発してるんだけどその実験に協力してくれないかなあ?!」



そう言って息巻くハンジに押されたのもあるが、新型の対巨人兵器にとてつもなく魅力を感じたミラは「ならリヴァイさん監修の元でなら」という条件でその実験を承諾したのだが、それが間違っていた。
リヴァイと共に入った部屋はあからさまに実験してますという部屋だった。そこかしこに薬品が置かれ、本も乱雑に置かれている。それだけでもリヴァイの目は据わり始めていたのに、さらにコポコポと熱せられている薬品の入ったビーカーは汚れているのだ。顔を顰めないでいられるわけがない。リヴァイの潔癖性は有名なのだから。
しかもその熱せられている薬品とあからさまに水と混ぜてミラに渡したのだ。


「はいっ!飲んで!」


渡された液体は水色の見るからに怪しい液体。
ぶっちん!と何かが切れる音がしたと思えば、般若のような顔をしたリヴァイがハンジの胸ぐらを掴んで凄んでいた。
しかし、ハンジも予測していたらしい。素早くミラの口に薬品を流し込み、口を手で塞いでいたのだから。


「むぐっ……」



何の心の準備も無しに謎の水色の液体を飲まされ、口を塞がれてはいくらミラでも抵抗のしようがない。



「飲むんじゃねえ!吐き出せ!」

「いいや、飲み込むんだ!」



なんて無茶苦茶な!吐き出せるのならとっくに吐き出している!しかし、息が続かず息苦しさに思わず目を閉じればチャンスとばかりにハンジは押さえつける手に力を込めた。
だから、仕方なかったのだ。その液体を飲み込んでしまったのは。


ごくん。と喉が震え、飲み込んだのを確認すれば苦い顔をしたリヴァイと万歳しながら喜ぶハンジがミラの目の前にいた。



「どうしよう…飲んじゃった…」



そう言っても後の祭り。しかしアレを飲んだというだけでやはり気持ちは悪い。
すると、ハンジの胸ぐらを掴んでいたリヴァイはハンジを荒々しく離すとミラの肩をガシリと掴み、部屋を出ようとする。


「ちょっと!何処行くのさ!」


「吐かせてくる。あんな怪しい液体ミラに飲ませやがって…」


「だからアレは新型の兵器だって!」


「違う意味で兵器だがな。とにかく、今ならまだ胃にあるからとにかく吐かせる」


「ダメダメ!絶対ダメ!」


「あ、あの、ハンジ?流石に私もアレは不味いというか、気持ち悪いというか……っ!」



言い争う二人を止めて何とかこの気持ち悪さを取り除こうとした矢先、ドクンと確かに心臓が高鳴った。



「……っ、く、…ぅ、…っ!」



突然の胸の苦しみに思わずリヴァイの服を掴み、しゃがみ込めば珍しく焦ったリヴァイと興味深々のハンジがミラを覗き込む。



「テメエ!クソメガネ!今すぐ削がれたいか…っ!」


「待って!リヴァイ!これからだから!」


「今ミラが苦しんでるだろうが!」


「わああ!成功するかな!」


「人の話を聞け!」


バシンッ!とハンジの頭をリヴァイは叩くがなんのその。ハンジはワクワクとミラの様子を見ている。



「……っ、く、…ああっ!」



嫌に高鳴る心臓と妙に熱い身体。
一際激しい痛みが身体を走ると、ハンジの狂喜に満ちた叫び声とリヴァイの見開いた目にミラは首を傾げるしか出来ない。




「や、やった…!せ、成功だよ!成功したんだよ!ミラ!」


「……え?」


一体何が成功なのだろうか。心臓の高鳴りも気持ち悪さも今はない。
首を傾げながら立ち上がればリヴァイが息を飲む音が聞こえた。


「……っ!」


「リヴァイさん?」



一体何が起きたのか。分からず首を傾げるしか出来ない。
そんなミラに興奮したハンジがガバリとミラの肩を掴んでまくしたてる。



「ね、ねえ!体調は?違和感とかない?!」


「え?さっきは気持ち悪いわ胸は苦しいわだったけど今は大丈夫だよ?」


「うわあああ!成功じゃないかああ!」


「っていうか何処が兵器よ。ただの怪しい薬の実験?」


「何を言っているんだよ!立派な兵器じゃないか!その猫耳!」


「はいはい。兵器ね。確かに兵器ね。猫耳が……猫耳?」


「うわあああ!尻尾も完璧!」


「…………尻尾?!」


「うおおおお!もしかして感情を表現してる?!」


「いにゃああああ!な、にゃにこれーっ!」


「おお!ネコっぽい!ネコっぽい!」



うおおおお!と奇妙な雄叫びを上げるハンジと悲鳴をあげるミラ。茫然とするリヴァイ。
それもそうだろう。突然ミラの頭に白いフワフワの猫耳とスラリとした尻尾が生えたのだから。


言葉を失っていたリヴァイだが、ハンジの叫び声にハッとしすぐさまハンジを蹴り倒した。


「ふぐおっ!」


「テメエ…クソメガネ…。どうやら死にてえらしいな」


「ま、待った!リヴァイ!これは兵器だよ!」


「何処が兵器だ。テメエの趣味丸出しじゃねえか」


「ほら!この可愛いネコを見たら巨人も攻撃の手を緩めて…」


「んなわけねえだろうが」


「それに可愛いじゃん!」


「そうか、それが本音か」


「や、やめよう!リヴァイ!落ち着こう!」


「俺は落ち着いている」


「ならその足を先ずはよけてえええ!」




そうハンジが言うも虚しくリヴァイは容赦無くハンジを殴る蹴る放り投げる。
一方、ミラはミラで二人がそんな事をしているのも気付かず、姿見の前で生えた耳を引っ張ったりかいたりしていた。



「うううう…、とれない…っ!」



それもそうだろう根元からしっかりと生えているのだから。


「ふにゃああ、どうしよう…」


しょんぼりと姿見の前で項垂れていると後ろからひとしきりハンジを痛めつけたリヴァイがやってきた。



「うう、リヴァイさん、私…わたし…」


「……っ!」



そう言ってクルリとリヴァイを見ればリヴァイは息を飲んだ。
垂れ下がった白い耳にじわりと浮かぶ涙。へにゃりと垂れている尻尾もまたそそるものがある。
リヴァイは思わずその垂れ下がった白い耳に手を伸ばし、恐る恐る耳を摘まんだ。



「ひにゅっ!」


「い、痛かったか?」



ミラから零れた声に思わず肩を揺らせば、ミラはフルフルと首を横に振った。



「ちょっとくすぐったいだけです」


「そ、そうか」


そう言ってさわさわと耳を触り続ければピクピクと反応するミラに思わずリヴァイはそのフワフワの耳を口に含み甘噛みした。



「ひにゃぁっ!……ぁ、…っ!」



ピクンと跳ねる身体を優しく押さえ、抱きしめてしまえばチラリと見える尻尾。
へにゃりと垂れている尻尾にそっと指を這わせればより一層艶やかな声を上げるミラ。

どうやら本当に神経が通っているらしい。しかもそこが性感帯ときている。
力の抜けた身体はくったりてリヴァイに寄り掛かり、耳まで赤くしたミラ。
そんなミラに欲情するなと言うのが可笑しいと言うもの。
チラリと頭によぎったハンジの言葉。


『だって可愛いじゃん!』


ああ、確かに可愛い。可愛いいのが可愛い物を付けたのだ可愛いくなるのは自然なのだから。
ぺたりと倒れた耳を少し撫でてやり、ミラを見ればその目に映るのはリヴァイと同じ欲に濡れた瞳。



「確かにある意味では兵器だな」


「はぇ?」


「なんでもねえよ」



そう言って軽々とミラを抱き上げ、伸びているハンジをチラリと見た。
確かに散々巻き込まれたがこれはこれでいい。
されるがままのミラを連れ向かうは自分の部屋。そうだ確か鈴があったはずとリヴァイは密かに笑った。












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