見えない勝負

「えへへー。やっぱり思い切って良かったかも!」


そう言って大きな姿見の前で下着姿でいる私はこの上なく頭がおかしい人に見えなくはないだろう。
けど嬉しいのだから仕方ない。こういう時、やっぱり女の子っていいな、なんて思ってしまう。


この前の休みにペトラと内地に買い物に行った時に買ったこの下着。
私達兵士はどうしても下着がすぐにボロボロになってしまうため、あまり下着にこだわりを持つ女性兵士は少ない。シンプルで安価で邪魔にならない。そんな下着にするのが普通だ。もちろん私だって訓練する時や壁外調査に行く時はそういう下着にするのが多い。
だが、それ以外なら。
訓練が終われば夜は基本的にミーティングや馬の世話が基本だ。しかも我らがリヴァイ班はあの潔癖性がリーダーなのだ。訓練の後は必ず誰もがシャワーを浴びなくてはならない。
その後の私の密かな楽しみがコレだ。
明らかにシンプルで安価で邪魔にならない下着からはかけ離れた下着。
内地に住むちょっと裕福な女性が着けるこの下着は決して可愛い値段ではない。
月に一回だけのこの買い物は私の心の癒しだ。
今回の下着ももちろん満足の行く買い物だった。

白を基調として、可愛いらしいフリルをあしらった下着で、なんとフリルはレースな上にほんのりとピンク色だ。
しかもこの下着、フロントホックタイプなのだが、金具で留めない。なんとホックの代わりがリボンなのだ。
しかもこの下着は谷間をより綺麗に見せてくれる下着で何時もより谷間が強調されて、ちょっとエッチというか大人っぽいというか…。
しかもこの下着についていたこのパンティも可愛いのがたまらない!
腰紐タイプでしかも紐も可愛いんだから!
思わず鏡の前でクルリと回ればニヤニヤが止まらない。
密かな私だけの楽しみ。これは彼でも知らない楽しみなのだ。
きっと彼が知れば絶対絶対絶対!下着を楽しむどころか変な幼女趣味とか金の無駄遣いとか絶対言う!だからこそ彼にも教えないし、教える必要性すらない。
さて、たくさん楽しんだし着替えますか。そう思い、着替えようと下着に手をかけようとしたら背後でガチャリと扉が開く音に思わず肩を揺らした。


「だ、だれ?!」


「………一人でなにしてんだ、ミラ。」


「り、リヴァイさん?!早く扉閉めて!見られる!」


「そうだな。」



そう言ってバタンと扉を閉めるリヴァイさんに思わず叫んだ。



「な、なんでリヴァイさんが部屋に入るんですか?!」


「ああ?別に見たって減るもんでもねえだろうが。」


「減ります!私の精神的な何かが減ります!」


「あ?毎晩見てるだろうが。」


「いやあああ!なんか生々しいからやめてください!」


「生々しい事してるからな。」


「もうやめてええ!と言うか着替えるんですから出てってください!」


「ああ?と言うかそんな下着持ってたのか。」



リヴァイさんに言われて思わず自分で自分の体を見下ろした。


「だっておニューの下着ですもん。」


「普段のとは大分かけ離れてるだろうが。」


「だってこれは自分一人でたのし……」


「…ほぅ。」



そう言ってジリジリと近寄るリヴァイさんに思わず後退する私。
もちろん、こんな狭い室内でしかも下着姿のまま逃げ切れるわけも無く、背中には壁。目の前には何だか不敵な笑みを浮かべるリヴァイさんがいた。



「なるほど。たまに一人で買い物に行くのはコレを買うためか。」


そう言ってクイっと肩紐を引っ張るリヴァイさんから思わず目を逸らした。


「い、いいじゃないですか。可愛い下着の一つや二つくらい。」


「誰も悪いなんて言ってねえだろうが。ただ、何で俺の前で見せない。」


「み、見せなくてもいいじゃないですか!」


「減るもんじゃねえだろうが。それに何時ものより気分も変わる。」


「これは私がひっそり楽しむものなんだからいいじゃないですか!」



そう言ってキッと見上げれば「そうか…。」と言ってクルリと回れ右をしたリヴァイさんにホッとしたのも束の間。その迷いの無い手つきで私の可愛い下着コレクションが入った引き出しをガバッと開けた。



「やっぱりな。お前ならここに仕舞うと思ったが…。こんなに集めてたのか。」



そう言って一つ一つ品定めをするリヴァイさんにもう半泣きになりながらその背中に縋り付いた。



「やめてえええ!何で下着入ってる引き出し分かるんですか!…ッハ!もしかして常習犯?!」


「馬鹿か。…オイ、今日はこれにしろ。」


そう言ってリヴァイさんが差し出したのは私のコレクションの中でもかなりお気に入りの白の下着。


「……今日"は"?」


「明日のは明日買ってやる。とりあえず今日はコレだ。」


そう言って律儀にその他の下着を丁寧に畳んで引き出しにしまうリヴァイさんに私はもう何が何だかわからなくなって来た。


「あの、今日"は"…とは?」


「ああ?今日はそれ着てヤるぞ。」


「あのー、下着着てやることじゃないような…。」


「明日はお前が買えない値段の物でも買ってやる。」


「ほ、ホントですか?!」



そう言って思わずリヴァイさんを見ればそれはそれは穏やかな顔をしたリヴァイさんがいた。



「そのくらい何でもないからな。」


「いいんですね?ホントにいいんですね?結構高いですからね?」


「その辺の薄給共と一緒にすんな。」


「やったぁ!」



そう言ったらリヴァイさんはニヤリと笑った。そう、ニヤリと。



「俺も楽しめてミラも欲しいのを買って貰えるんだ。互いに損はないよなぁ?」



そう言ったリヴァイさんに泣きたくなった。
そうだ。この人はタダで何かを与えるなんてしない人だった。
で、でも、可愛い下着を買って貰えるなんてそんな美味しい話を…う、うーん!どうしよう!



「オラ、さっさとそれに着替えろ。それとも今ここでヤられたいのか。」


「た、只今着替えますっ!」


そう言って下着を取れば軽く舌打ちが聞こえた様な気がするが、気にしないことにした。


「とりあえず着替えて俺の部屋に来い。いいな。」



そう言って部屋を出たリヴァイさんを振り返る余裕なんて私には無かった。
黙って従うべきか否か。この頼りない布地で果たしてどこまで頑張れるのか。
ただただこの先の惨状を考えると私は乾いた笑しか出来なかった。




















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