「んー、んー!」
「ほら、早く降参しろミラ。まだ無駄に抵抗するか。」
「まだ、まだですっ!まだ勝負はついてませんっ!」
そう言うミラの目は真剣そのもの。
手に持ったカードを見てはチラチラとリヴァイを見る。
対するリヴァイは余裕の笑みを浮かべ、足を組んでニヤニヤとこちらを見ていた。
「絶対、絶対勝つんだからっ!」
どうしてこうなったのか。それは偶然だった。
偶然ミラが一人で食堂へ来て、偶然エレン達がほんのお遊びでやっていたポーカーにミラが興味を持ち、エレン達に教わっていた所を偶然恋人であるリヴァイに見つかり、いいことしてんなあ。まさかミラからカモろうとしてんじゃねえよなぁ、ガキ共。なんて言ったら、滅相もございません!ただ楽しくゲームしてました!なんて必死に弁解するエレン達を尻目に「兵長も遊びましょーよー。」なんて呑気に声をかけたことから始まったのだ。
「遊んでもいいが、俺の貴重な時間を割くんだ。其れ相応の褒美がなけりゃやらねえよ。」
「なら、勝った人の言うことを何でも聞くってのはどうですか?」
そう言ったミラにリヴァイは
「本当に、何でも、だな?」
「あ、勿論実現可能な範囲でですよ?ハンジの助手とか今から巨人生け捕りとか無茶は無しで!」
「よし、乗った。いいかミラ、途中で逃げるのは許さねえ。」
「もちろんですっ!女に二言はありません!」
「その言葉、よく覚えとくんだなぁ、ミラよ。」
その時の自分を殴りたいとミラは思った。
何でこんなにリヴァイがカードゲームに強いのか。それは全く予想外だった。
ポーカーではボコ負けし、ブラックジャックでも負け、七並べでも負ける始末。
あと一回、あと一回と言いつつもう何回勝負したことか。ミラは一度も勝つ事なく、何とかリヴァイに勝てないかと最後のチャンスと言う事で、ババ抜きを最後の勝負に選んだのだ。
しかし、ババ抜きですらリヴァイが優勢なのはどうしてなのか。
ミラは訳もわからないままうんうん唸り、ただリヴァイを睨む事しか出来ない。
「ほうら、ミラ。どっちがババだろうなあ。」
「む、むむー!あと一枚、あと一枚なのに!」
ミラの手札は一枚。リヴァイは二枚。つまりどちらかがババであり、どちらかが当たりなのだ。ここでせめて一勝だけでもしたいミラは必死になってリヴァイの手に握られた二枚のカードと睨めっこをする。
「む、むむー!こっち、こっちですっ!」
そう言って掴むは右のカード。しかし、リヴァイの後ろで見ていたエレンはガタガタと体を震わせていた。
「え、えー!ば、ババ…。」
「ふ、なら俺の勝ちだな。」
そう言って華麗にミラの手札を取るリヴァイ。
しかし、エレンは思った。この人、容赦ない、と。
リヴァイの残されたカードをチラリと見る。
それは紛れもなく先程ミラが引いたカードと同じ、ババだった。
そう、リヴァイはもともとゴロツキだったのだ。こんなお遊び、していない訳がない。もちろん、イカサマだって出来ない筈がない。
勿論リヴァイだって普通に遊ぶならある程度ミラに勝たせてやっただろう。しかし、今回は褒美が掛かっているのだ。それにリヴァイが反応しない訳がなく、つい大人気ない手段に出てしまったのだ。
「もうっ!兵長トランプ強すぎですっ!」
「伊達に場数踏んでねえよ。」
「……?」
「なんでもねえよ。」
そう言ってパサリとトランプを放り、ニヤリとミラを見た。
「何でも、言うことを聞くんだよなあ。何でも。」
「は、はい…。」
「なら、先ずはこれを着てもらうか。」
「先ずは?先ずはって続きがあるんですか?!しかも何ですか!このスリット!」
「ああ?文句あんのか。散々もう一回もう一回って言ってた癖になあ、ミラ。」
「うぐっ、…。」
「そうか。ミラはそういう奴だったか…。」
「ち、違いますっ!こんなの、私へっちゃらですから!」
そう言ったのも後の祭り。
ニヤリと笑うリヴァイにハッとした所で遅いのだ。
ガタンと椅子から立ち上がり、フルフル震えるミラを軽々と持ち上げ、エレン達をチラリと見た。
「邪魔したな、ガキ共。」
「いやああっ!エレン助けてっ!食べられる!襲われる!」
「どれもミラの喜ぶことじゃねえか。」
「ひいっ!」
ミラの耳元でわざとそう言えば、期待通りに腰を震わせた。
そして今度こそ振り返る事なくリヴァイは部屋へと行ってしまう。
ああ、何と可哀想な事をしてしまったのか。
小さな草食動物を獰猛な肉食獣に差し出したも同然だ。
せめて明日元気な姿を見れたらいいと願うが、願い虚しく次の日ミラは休むことになってしまったのは言うまでも無いだろう。