「私、兵長に愛想尽かされたのかも知れない。」
そう言ってミラは深い溜め息と共に瞳を潤ませた。
「えっ…?」
そんなミラの言葉にエレンを始めとするリヴァイ班全員がミラを見た。
「いや待て。それはあり得ないだろう。」
「うん、ほんっとーにソレはあり得ないから。」
ペトラに至ってはミラの両肩をがっしりと掴んでそう言った。
「一体何があったの?兵長に嫌いって言われたの?」
「ううん…。そんな事言われたら私死んじゃう。」
兵長聞きましたか?!ようやくミラを落とせますよ!とペトラはリヴァイに叫びたかった。
それはそうだろう。リヴァイがミラに恋心を寄せているのは周知の事実。
知らないのは本人だけ。しかも今まで恋愛をしてきた事も無く、常に頭にはお花が咲いているようなミラに普通にアプローチしただけでは伝わるハズもなく。最早最近の調査兵団の日常と化しつつある。
「いい?ミラよく聞きなさい?…とにかく兵長がミラを嫌うとか邪魔に思うとか有り得ないから。それはオルオが兵長になるのと同じくらい有り得ないから。」
「ペトラよ…それは酷くないか?」
「黙りなさい。…いいこと?この調査兵団の平和にはあなたは必要不可欠なの。それだけはそのお花畑な頭に叩き込みなさい。」
「……ペトラ、ありがとう。」
「…え、それで喜べるの?」
思わず突っ込んでしまうエレンだったが、それでも素直に喜ぶミラを見て何も言えなくなった。だって本当に喜んでいたから。
「具体的に今どんな状態なの?」
ペトラがそう言うとまたミラはションボリとした。肩を落とし、両手をにぎりている。…正直、可愛い。
「今までなら、一緒にご飯食べて一緒に書類書いてお風呂の見張りしてくれて、髪の毛乾かしてくれて一緒に寝てたんだけどね…。」
「…え、それが普通だったの?」
「…うん。」
「…付き合って、無いんだよね?」
「…?そうだよ?」
キョトンとした表情のミラを見てペトラは何だかリヴァイが可哀想に思えて来た。
わっかりやすいアプローチだなぁとは思っていたが、二人の間にこんなやり取りがあるとは…。最早上司と部下ではない。これは普通に恋人同志の行動だ。
しかもあの潔癖性が自ら髪を乾かしてやり、一緒のベッドに眠るなんて…。なんて分かりやすいアプローチというか愛情表現というか…。
「けどね、もう10日もそうじゃないの。…寂しいよぉ、ペトラぁ…。」
とうとうミラはグズグズと泣き出してしまった。
しかしペトラは思った。これはチャンスだと。調査兵団の平和のため、ここは一つ自分がミラの背中を押せばあるいはこの二人上手く行くんじゃないかと。
「いいこと、ミラ。よーく聞いて?」
「…うん。」
「兵長がミラ以外の人とそうしてたらミラはどう思う?」
「絶対嫌。」
「その相手をどうしたい?」
「削ぎ落とす。」(キッパリ)
「よろしい。」
えええ!これにはエレンを始めとする全員が立ち上がった。
「ちょ、ペトラ!いくらなんでも…」
「オルオうっさい。黙れ。」
「…ペトラ…。はい。すみません。」
ピシャリと言うとペトラはミラに向き直った。ちなみに周りはハラハラとしながら二人を見守っている。
「いいこと?ミラは兵長が好きなの。ただ好きなんじゃなくてもう兵長無しじゃ生きられないくらいに。」
「兵長が…。私が…兵長を好き…?」
「そう。上司部下の好きじゃない。兵長と恋人同志になりたい…いや、もうぶっ飛んで夫婦でもいいわ。」
「ぶっ飛び過ぎでしょう!?」
「エレンは黙る!…だからね、その気持ちを忘れない内に兵長に伝えなさい。大丈夫。ミラの気持ちをきちんと伝えればちゃんと伝わるわ。」
「…ありがとう!ペトラ!早速言ってくる!」
「ええ!行きなさい!平和のために!」
「うん!ありがとう!ペトラ!大好き!」
「うんうん。それは兵長に言いなさいね。」
「うん!行って来ます!」
「さぁ!行きなさい!」
押し切った!そう思い、ペトラはガッツポーズをした。
そんなペトラに思わずメンバーは拍手をした。
「これで調査兵団も安泰ね!」
その言葉通り、翌日には食堂にてニコニコとリヴァイの膝に座りリヴァイの手ずからパンを食べるミラの姿があった。
めでたく恋人同志となった二人。
ペトラ達は軽くその光景に苦笑いを浮かべ、席に着くとそちらに気付いたリヴァイが声をかけた。
「ペトラ。」
「は、はい!」
「…でかした。」
その一言でペトラは何と無く察した。
あぁ、作戦変更だったのかと。押して駄目なら引いてみろ。正にそれを彼は実行したのだ。
だが、悲しいかな。ミラにはそれがむしろ嫌われていると見えてしまっていた。そこにペトラがうまい具合にミラに教え込んだため上手く行ったのは彼も気付いたらしい。
「この俺に10日も我慢させたんだ。これから俺はミラを補給するからお前らは適当にやっとけ。」
そう言って我らが兵長は可愛らしい恋人を抱いて笑顔で去って行く。
はたしてこれで良かったのだろうか。
だが、幸せそうな二人をみたら何だか何も言えなくなり、彼らは再び席に着いた。
「とりあえず掃除しときますか!」
ペトラがそう言うと皆は黙って頷いた。
触らぬ神に祟りなし。
今日も今日とて調査兵団は平和である。