兵長と年の差婚 | ナノ
ザアザアと降りしきる土砂降りの中、リヴァイはとてもとても不機嫌そうに帰路についていた。ただでさえ残業で帰りが遅いのに付け加えこの雨である。潔癖性のリヴァイが雨が嫌いなのは当然でタクシーで帰ろうかとさえ思う程。しかしタクシーは通る車全て空車は無く、そもそも何時もは車で来ているのにたまには気分を変えて歩いてみればこの仕打ちである。幸い突然の雨でもしっかり会社に置き傘をしていたので濡れる心配は無い。しかし、不愉快なのには変わりない。しかも傘があるとはいえ手にした鞄や肩が少しは濡れてしまう。リヴァイは舌打ちをしながらも、家で待っているだろう妻の元へと急ぎ足で帰る。例えその顔が鬼のような形相でも気にしてはいけないだろう。
ここ最近聞き慣れた機会音が鳴ればガチャリと解錠される扉。
ゆっくりと開けば何時も出迎えてくれる可愛らしい声がない。
ふとリヴァイは首を傾げるが、玄関に置かれたメモを見て納得した。
「友達の補講に付き合うので帰りは遅くなる…か。しかし、遅すぎないか」
チラリと時計を見ればもう8時半。いくら大学と言えど補講で8時はないだろう。
外は土砂降り。傘置きを見ればミラの傘がしっかりとあるではないか。
確かに朝は晴れていたし、降り出したのは夕方からだった。未だに降り続ける雨と、暗い部屋。
携帯を確認してもミラからの連絡は無い。
「ッチ。変に気い使いやがって」
甘えたなくせに甘え下手なミラ。素直に迎えに来てと頼めないのは仕方ないのかもしれない。しかしそれでも甘えて欲しいと願うのはあの子にとって辛いのかもしれない。
仕方ないとリヴァイは肩を拭うよりも先に慣れた手付きでミラの名前を着信履歴から呼び出し、電話をかける。
「……早く出やがれ、クソ」
「どうしよう…この雨……」
友達にどうしてもと言われ補講に付き合ったまではいいがまさかこんな土砂降りになるとは予測出来なかった。
大学を出た時は確かに雲行きは怪しかったがまさかここまで降るとは。
周りを見ればミラと同じように駅構内で雨宿りをする人で溢れかえっていた。
駅のコンビニで傘を買おうにも傘が売り切れていたので買えず、まさかこの土砂降りの中走って帰る気にもなれない。
手元の時計を見ればもう8時半を過ぎている。
リヴァイからの「今から帰る」というメールが来たのが7時半くらいだったからもうリヴァイは家に着いたのだろう。
何度も付けては消している画面に溜め息をついた。
「疲れて帰って来てるのに迎えに来てなんて…言えないよね…」
しかし時間は無情にも過ぎて行く。流石にこの時間ではリヴァイに心配をかけてしまうだろう。ならば走ってみようか。いや、体力も無いのに走っても悲惨な結果しか無いだろう。ミラは溜め息をついて手に持った携帯から目を離し、空をみた。
まだまだどんよりとしていて止みそうにはない。
溜め息をつけばブルブルと震える携帯。画面を開けばそこにはさっきまで連絡しようかしまいか迷っていた人の名前。
「もしもし…リヴァイさん?」
「オイ、ミラ今どこに居た」
「えと…駅で雨宿りを…。コンビニで傘を買おうとしたんですけど売り切れで…」
「ッチ。もっと早くに電話寄こせばいいものを…」
「す、すみません…」
電話越しにもリヴァイが苛立っているのが分かり、ミラはしゅんと落ち込んでしまう。
やはり連絡するべきだったか。しかし、 疲れている彼に面倒をかけるのも…。
「今から迎えに行く。駅なら直ぐに着くから見えやすい所で待ってろ」
「で、でもリヴァイさん疲れて帰って来てるのにそんな面倒を…」
「自分の嫁を迎えに行くのが手間な訳あるか。いいからとにかくそこで待ってろ。そして相合傘で帰るぞ」
「相合傘ですか…」
てっきり濡れるのが嫌な彼ならば車で来るのかと思いきや歩きで来るらしい。しかも相合傘をすると言っている。
「素直に甘えない罰だ」
「全然罰じゃないじゃないですか」
「ならその後は背中流せ。それから一緒に風呂だ」
「そ、それはちょっと…」
「拒否したら駅で公開キスシーンかましてやる」
「ひ、酷いです!そんな究極の選択!」
「ならいい子で待ってろ」
「……はぁい」
「よし、いい子だ」
そう言ったリヴァイの声はどこまでも優しい声だった。
じゃあ、と言って電話を切るリヴァイ。携帯を閉じ、ミラは一歩踏み出し駅の入り口へと立つ。
雨脚はまだまだ強いがそれさえも今は愛おしく感じた。
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